異邦人大系 短編集
□過誤の鳥 〜エピソード〜
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王取は一人、静まり返った
事務所へと戻った。
デスク上の書類へ目を落とし
軽く眉間に皺を寄せると
煙草の煙を吐き出す。
そこへ、ドアをノックする音と
よく通る声が自分の名前を
何度か呼ぶのが聞こえた。
その聞き覚えある声に
王取は一つ瞬いて
玄関入り口へと向かった。
『──あ、王取さん。良かった、居た。…てゆーか、ここインターホン切れてませんか? 聞こえてました?』
『ん。諸事情でな。わざと切ってんだ。──それより、どーした?』
『いえ。ちょっとお話の方、伺いたくって』
『……?、』
『───ナニ。ウチで働きてぇーの? お前…』
『男手とか、足りてるのかなって』
『あ?』
『便利屋って。─ほら。何かと力仕事とか、色々と面倒事なんかも多そうなのに。ここの事務所って、さっきの女の子しか従業員が居ないって言ってたじゃないですか』
『ウチで雑用やら力仕事、やってくれるって? んな、ひょろっちぃ身体してか? お前、やれんの?? ウチ、厳しいぜ?』
ソファーの対面へと座り
クスリッと蒼は笑みを零した。
『それ言ったら。王取さんだって、不相応っぽいじゃないですか。便利屋さん…っていうよりかは、ホストとか客商売っぽいですよ? 見た目──、(笑)』
『おーおー。今から雇って貰いたいってゆう所長相手にお前、その言い草か───』
『あ、ごめんなさい。悪い意味、じゃなくってですね。──そのっ…、男の俺から見ても所長さん、男前だから…。そういった意味合いでです。…モデルさんっていったらモデルさんかもだし、俳優さんだーって言っても全然、通りそうですし………』
『…お前なぁ。ヨイショ、し過ぎだろーよ』
『いやいやいや、本音ですよ──??』
『…へぇ──?』