異邦人大系 短編集

□過誤の鳥 〜エピソード〜
5ページ/23ページ

 









王取は一人、静まり返った
事務所へと戻った。

デスク上の書類へ目を落とし
軽く眉間に皺を寄せると
煙草の煙を吐き出す。

そこへ、ドアをノックする音と
よく通る声が自分の名前を
何度か呼ぶのが聞こえた。

その聞き覚えある声に
王取は一つ瞬いて
玄関入り口へと向かった。








『──あ、王取さん。良かった、居た。…てゆーか、ここインターホン切れてませんか? 聞こえてました?』


『ん。諸事情でな。わざと切ってんだ。──それより、どーした?』


『いえ。ちょっとお話の方、伺いたくって』


『……?、』















『───ナニ。ウチで働きてぇーの? お前…』


『男手とか、足りてるのかなって』


『あ?』


『便利屋って。─ほら。何かと力仕事とか、色々と面倒事なんかも多そうなのに。ここの事務所って、さっきの女の子しか従業員が居ないって言ってたじゃないですか』


『ウチで雑用やら力仕事、やってくれるって? んな、ひょろっちぃ身体してか? お前、やれんの?? ウチ、厳しいぜ?』



ソファーの対面へと座り
クスリッと蒼は笑みを零した。





『それ言ったら。王取さんだって、不相応っぽいじゃないですか。便利屋さん…っていうよりかは、ホストとか客商売っぽいですよ? 見た目──、(笑)』


『おーおー。今から雇って貰いたいってゆう所長相手にお前、その言い草か───』


『あ、ごめんなさい。悪い意味、じゃなくってですね。──そのっ…、男の俺から見ても所長さん、男前だから…。そういった意味合いでです。…モデルさんっていったらモデルさんかもだし、俳優さんだーって言っても全然、通りそうですし………』


『…お前なぁ。ヨイショ、し過ぎだろーよ』


『いやいやいや、本音ですよ──??』


『…へぇ──?』




 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ