異邦人大系 第一部〜第二部

□復讐の紫炎〔起〕
1ページ/4ページ




      *

「起立―、礼」

途端、賑やかになる二年B組の教室。

HRが終わり次第、チャイムも待たずに祢津也は教室を出た。

「こらー、せめてチャイム鳴ってから教室出ろー!」

「別に、いーだろ。そんなの」

鞄を持った手を肩に掛け、うざったそうに言って祢津也は教室を後にした。

「―ったく」

プリントやらを纏めながら、彼の担任である相条は深く溜め息を落とした。

――キーンコーンカーンコーン…

祢津也に遅れてチャイムが鳴る。



一方、同時刻のC組―。

――ン、キーンコーンカーンコーン…

「草薙ちゃん、バイバ〜イ♪」

「バイバイ」

クラスメートに手を振り、鞄に教科書をしまうと姫嬉も自分のクラスを後にする。

階段を降り、あの校舎の片隅にある部室へ向かった。



――カラッ

姫嬉が部室のドアを開けると、既に祢津也が来て椅子に凭れ掛かっていた。

「ネヅ君、早いね」

「おー。ま、俺も今来たばっかだけどな」

姫嬉は鞄を置いて、祢津也の近くの椅子を引く。

「あれ、陣内君は?」

「何か日誌書いてたぞ」

「へぇー、日直か」

ハァ、と祢津也は溜め息を吐いた。

「よく、あんな面倒な事やるよな―」

「……ネヅ君。それくらい、やろーよ…」



―そんな二人の様子を窺う影があった。

その影は、何とも言えない色をしたフードを目深に被り、部室の後ろのドアからガラス越しに二人を見ていた。

(…草薙 姫嬉―、宍倉…祢津也ぁ…ッ!!)

懐をゴソゴソ探り、銀色に光る小型の銃を取り出した。

銃口が祢津也と姫嬉の間で揺れる。

(―此処はやはり、草薙 姫嬉を先に…いや待て、あの男を後に残すのは厄介だ……、やっぱり宍倉 祢津也が先か……し、しかし優先順位を考えると草薙 姫嬉…)

「あのさ。何してんの、アンタ…」

人影が飛び上がった。

声の主は、職員室に日誌を置きに行った帰りの優斗だった。

「校舎は関係者以外、立ち入り禁止の筈なんだけどな。何処から入り込んだんだ…」

優斗がフード姿の影の肩を掴もうとした時、その影は手を振り払って逃げ出した。

「あっ、待てよ!」

長い廊下をフード姿の影はダッシュする。

「おいっ、止まれって!!」

仕方なく、優斗は追い掛ける。



「!、…何?」

廊下が騒がしいのに姫嬉が気付いた。

ドアのガラス越しに、廊下を駆けて行く姿が“零点コンマ一秒”映った。

「あ。優斗…」

「ネヅ君、目、凄っ!!」

「…そ?」←獣並動体視力



フード姿の影は止まる様子もない。

「だから、止まれっつってんだろうが!!」

だいぶ廊下を走った。

この先は行き止まりだ。

影は何も知らずに袋小路になっている角へ飛び込んだ。

「―いい加減に…」

大人しくしろ、と続けようとして優斗は息を飲んだ。

「!!?」

フード姿の影は、忽然と姿を消していた。

優斗は言葉を失う。

何処へも逃げ場は無い筈なのに…と、背後から殺気が吹き付けた。

優斗は殺気のする方を振り仰ぐ。

「!」

信じ難い事に、フード姿の影は廊下の天井にまるで蜘蛛のように張り付いていた。

その手にはピストル、しかも銃口は真っ直ぐ優斗に向いていた。

――ガウ…ンッ!!

銃声は校舎を賑わす部活動の音に呑まれた―。


 
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ