異邦人大系 第一部〜第二部

□復讐の紫炎〔承〕
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      *

あの日から、一週間が経過した―。

放課後の教室で一人、優斗は机へ伏して物思いに耽ていた。

窓の外を雲が流れて行く。



五日前の今時分―。

頬杖を付き空を眺めていた優斗の元へ、足早な足音が近付いて来た。

――ガラァッ!!!

乱暴にドアが開く。

「優斗っ!!」

並んだ机の間を縫い、いつもより格段不機嫌そうな面持ちで、彼は優斗の席まで歩み寄った。

「…祢津也」

優斗は小さく呟いて頬杖から顔を上げる。

――バンッ!!

祢津也は机に荒々しく両手を付いた。

「お前っ、三日も無断で部室にも来ないで何やってんだよ!!!」

怒鳴る祢津也に怯む訳でもなく、優斗は静かに視線を返した。

「―別に」

その一言が祢津也の神経を逆撫でした。

「あん?! 何なんだ、その態度っ!!?」

優斗に掴み掛かる。

「…俺、短い間だったけど探偵クラブ辞めるよ」

祢津也を一瞥して、その手を引き剥がした。

優斗は席を立つ。

「はぁ!? …何言ってんだ、お前?!」

優斗は何も答えない。

「―何だよ、急に…。何かあったのかよ!?」

教室を後にしようとした優斗を、祢津也が掴んで引き止めた。

「おい、優斗!!」

足を止め、暫し優斗は黙っていた。

「……知ってんだよ」

「―?」

優斗の鋭い両眼が祢津也を振り返った。

「―お前らが隠れて裏でやってる事…!」

「!!?」

祢津也の手が離れる。

「………、その反応…。やっぱり本当だったんだな―」

「……………」

「…安心しろよ。クラブは辞めても、誰にも言わないで置いてやるから―」

優斗の冷めた目が祢津也を見つめた。

「……お前、何処でそれ…」

祢津也の目付きが急に一段と鋭くなる。

「全部聞いたよ。…誰からかは、言えないけどな」

「…それで辞めるってのか?」

優斗は息を吐き、祢津也に向き直った。

「―別にそのくらいの話なら、ちゃんと理由さえ話してくれてれば、目を瞑ったかも知れない…」

祢津也は押し黙る。

「―でも、“人を殺した”ってのは穏やかじゃないよな」

「!」

「しかも、姫嬉さんの依頼だったんだろ? …女って何考えてんだか分からな…」

――ガ…ッ!!

「優斗、言い過ぎだぞっ! お前が姫嬉の何を知ってるってんだよっ…!!」

いきなり本気で顔を殴られ、優斗はよろめいた。

鋭い目で祢津也を睨む。

――ガツ…ッ!!

――ガタタ…ガタンッ

「だったら教えてくれたら良かったろ…!? こんな事になる前にっ!!」

今度は優斗が祢津也を殴った。

並ぶ机に祢津也がぶつかって椅子が倒れる。

「……ったまたま、言うタイミングが無かっただけだろーがっ!!」

祢津也の言葉に優斗は目を見開く。

「そんなの、信じられるかよっ!!」

此処が教室である事も忘れ怒鳴り合う。

祢津也がゆっくり歩み寄り、優斗の襟首を掴んだ。

「―あのなぁ…、今になって思うよ……」

静かに言って祢津也は拳を握った。

優斗は黙って視線を返す。

「……やっぱり、お前…、信用出来ねぇーよっ!!」

――ガツ…ッ!!!

優斗は廊下に倒れ込んだ。

そこへ姫嬉が駆け付けて来て、小さく悲鳴を上げた。

「…教えて置かなくて良かったって、心の底から思うぜ!」

「センセー、早く! 二人を止めなきゃ!!」

優斗は切れた口角を拭って身体を起こした。

「……祢津也ぁ、…分かってないよ、お前っ…!」

優斗は苛立ちを噛み締め、ゆっくりと立ち上がる。

「―俺は…、俺にだけ言ってくれなかった事を怒ってんだよっ…!!!」

拳を握って思い切り祢津也に向かって行った。

――ガッ!!!!

優斗の拳を祢津也がガッシリと掴んだ。

「―くっそ…、離せっ!!」

「うるせぇっ! 黙らしてやる…!!」

「二人共、止めてっ!」

姫嬉が祢津也の腕にしがみ付いた。

相条は優斗を羽交い締めにする。

「止めなさい、陣内っ!! …ネヅっ!!」

仲裁されても尚、祢津也と優斗は啀み合う。

「お前なんかなぁ、仲間でも何でもねぇーよっ!!!」

「上等だよっ!! お前なんか、もう知るかっ!!!!」

…………
………
……



(―あんな喧嘩…、生まれて初めてしたよなぁ…)

ふと思い出し、大きく溜め息を吐いた。

空が青い―。

「!」

人の気配に気付き顔を上げると、そこにはフード姿の人影が立っていた。

「……紫炎、さん」


 
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