異邦人大系 第一部〜第二部
□復讐の紫炎〔転〕
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翌日の朝、相条は祢津也と姫嬉を呼び出した。
「―陣内の奴、昨日は家に帰らなかったらしい。こんな事は初めてだそうだ」
「嘘だろ…」
祢津也の表情が曇った。
「職員朝会では、何らかの事件等に巻き込まれたんじゃないかって話になってる…。まあ、一日目だし何とも言えないがな―」
「紫炎…、陣内君を人質に私達を誘き出すつもりなんじゃ…」
「可能性はある。放課後になっても陣内の消息がハッキリしなければ、昨日の場所に行ってみるか」
二人は頷いた―。
放課後になっても優斗の行方は知れなかった。
三人は昨日の倉庫へと向かう。
(あの馬鹿、何やってんだよ…!)
祢津也は先を急ぐ。
「落ち着け、祢津也! まだ必ずそうと決まった訳じゃない!」
「うるせぇ! アイツ、紫炎に揺すられてたんだよ!!」
((―祢津也…、話があるんだ……))
あの日の放課後、優斗は全てを祢津也だけに打ち明けていた。
真実が知りたい、と―。
「紫炎は優斗を使って何かしようと企んでやがった…。だから、態とアイツの思惑に引っ掛かった振りまでしたんだ!」
「それってあの喧嘩の事!? アレって、二人の芝居だった訳?」
「もう一度、優斗と接触させて…今度こそ確実に紫炎の奴を捕まえてやる筈だったんだっ!」
「ネヅ君、そんな事考えてたの?!」
「騙されてる振りしてりゃ相手だって油断すんだろ? 何を企んでんのか、ハッキリさせたかったんだよ…!」
「―だが、失敗したって訳か……」
「今思えば、アジトを見つけた時点で捕まえちまえば良かったんだ」
「陣内の事だ―。ハッキリさせると同時、説得でもしようとしたんだろうな…」
「優斗も、優斗一人に任せた俺も甘かった…。これも全部、アイツの計算だったかと思うと腹が立つぜ!!」
あの古倉庫が見えて来た。
三人は気配を消して倉庫に忍び寄る。
扉にソッと耳を当てがうが、物音一つしない。
静か過ぎる―。
ゆっくり扉に手を掛けると、重い音を立てて扉が開いた。
中の様子を窺うが、中は真っ暗で何も見えない。
三人は静かに足を踏み入れた。
辺りの気配を頻りに窺う。
「―!」
暗闇に馴れて来た目が、機械的に動く無数の人影に気付いた。
それらは足音も気配も無く、三人の周りを取り囲んでいた。
「コイツら、確か“火の者”…!」
男達はジワリ、ジワリと、不気味に迫って来る。
そんな火の者達の中から軽い身のこなしで一人、進み出て来た者があった。
頭から足の先まである真っ黒な布を羽織り、顔は目深に被ったフードにより窺う事が出来ない。
紫炎を思い出させる風貌ではあるが、その背格好や雰囲気から、そうでない事だけが分かった。
「お前、何者だ…!!?」
質問には答えずに、布の下からスッと手が挙がった。
「―?」
斯くして、その手が振り下ろされる。
それを合図に、火の者達が一斉に襲い掛かって来た。