異邦人大系 第一部〜第二部

□復讐の紫炎〔結〕
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      *

「――しっかりしろ、優斗っ!! 一体、何だってんだよ…?! おい! このままじゃお前も俺らも…全員死んじまうんだぞっ!!?」

「陣内!! どうした!? 俺達が分からないのか?! 目を覚ませっ、自分の意思をしっかり持つんだ!!」

祢津也や相条が声を張り上げるが、優斗は依然として表情無く立ち尽くしたままだ。

「…くっそ〜!! 式神! 居ねぇーのかよ、おい!? 出て来やがれ、この野郎っ!!!!」

祢津也が当てもなく叫んだその時―。

――ドロン…ッ

『――喧しい奴だな。何の用だ、小僧…』

勘左ェ門が姿を現した。

「!」

まさか本当に居るなんて思っていなかった祢津也は一瞬、驚く。

しかし、直ぐ様、用件を思い出すと、この行き場のない苛立ちと焦りをそのまま勘左ェ門へとぶつけた。

「テッメェ〜ッッ!! ずっと、そこに居やがったのかぁ!? 何っで黙って見てたんだよ!! 一体、何処をどう見てたっ!? 今の今まで、何をして……!!」

「ネヅ君っ!! そんな事は後にして!!」

「…くそっ、分かったよ! おい、式神っ! 何でもいいから、早く…!! さっさとコレ、解きやがれっ!!」

そんな祢津也を差し置いて―、勘左ェ門は落ち着き払った様子で言葉を返した。

『……無駄な事だ。俺が解いた所で直ぐにまた、縛られるのがオチだ―。そうだな。先に優斗の奴の術を解かなくては…』

「だぁーかぁーらぁっ!! このままじゃあ、それが出来ねぇっつってんだろっっ!!!?」

祢津也は、イマイチ緊迫感の足りない勘左ェ門に噛み付く。

『―それに。それが人へ物を頼む時の態度か? 優斗は、貴様らの事を随分と信用しているようだがな。優斗を信用しないお前らを俺は信用しない。第一、俺よりアイツがお前の事を優先させるのが心底、俺は気に入らない。先に言って置く。俺はお前が、嫌いだ―。理由を挙げれば切りがないが。………お前、生意気なんだよ』

「なっ、何だと、テメェ!! つか、つらつらつらつら長げぇーんだよ! 怨み節かぁ!? 俺、お前に何かしたか?? あぁ?!」

「ネヅ君、今はそれ所じゃないでしょ!?」

そんな事をしている間にも、炎はどんどん燃え広がり煙は充満して来る。

「ったく、お前じゃ話になんねぇー!! ――そ、そうだ、化け猫…! おい、化け猫の方は居ねぇーのかっ!? アイツなら、どうにか出来るんじゃ『騒ぐな、小僧…っ!!』

優斗の身体の中から、大きな黒い妖魔の姿をしたクロの頭が飛び出して来た。

「ぎゃあああああっ!!!!!!」

目と鼻の先に現れたそれに祢津也は悲鳴を上げた。

「…近いっ!! 寄るなぁあああっっ!!!!」

祢津也はブンブンと大きく手を振って黒猫を払う。

『―金縛りが解けたようだな……』

呆れて表情を無くした勘左ェ門がポツリと言った。

「え゙っ…?」

祢津也はハッとして、振り回していた自分の手を見る。

「ネヅ君、急いで! 陣内君、きっと紫炎の催眠か何かに掛けられてるのよ…!」

姫嬉達の金縛りは未だ解けていない。

火の者達に囲まれていた相条と姫嬉は今、激しく燃え上がる炎の中に居る。

『私は此処から出られん。―迂闊だった。…だが、それ故この至近距離に限り、今のお前に金縛りは効かんだろう…』

出所のハッキリしない声だけが、その場へ響く。

『……勘左ェ門、お前もお前だ。時と場所を少しは弁えろ』

『…………す、すみませぬ―』

『…さて、小僧。コイツらの真意の程も、そこそこに。――分かるか…? お前がやるしかないぞ、小僧……いや。宍倉 祢津也』

黙って聞いていた祢津也はニッと、引きつった笑みを浮かべた。

「―ああ、だなっ…!」

祢津也は意を決して立ち上がる―。


 
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