異邦人大系 第三部

□in 時幻党
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『…んじゃ、お言葉に甘えて』



イノセは出来るだけ
ゆっくりな動きで
優人の手首ごと掴むと
直接そこへと顔を寄せた。
慌てたのは優人だった。
どうぞ、と言ったのは
確かに自分だったけれど
この展開は予想していなかった。
自身を“王”と称するイノセの
ギザギザした歯の連なった口が
優人の手へと触れる。─途端、
ビクリと優人の手が振れた。
それにまた噴き出しそうに
なったのを堪えながら
稀にみる優越感へと浸りつつ
暫しの間、至福な一時を楽しむ。





『……………』



始終無言な優人を
不思議に思い、ふと
イノセが視線を遣ると
優人は一連の流れに
完全凍結していた。





『…ぶっ!!』



それに堪え切れなくなり
噴き出し、腹を抱えて
くつくつと笑い声を上げた。

どうしよう、コイツ
本当に面白い──。

成り代わりの見習いなんて辞めさせて
俺様直々の下僕にしてやろうか───。

そんな事を思っていた矢先…





──ゴスッ★



何の前触れもなく
イノセの頭に分厚い書物が
その角を突き立てた。





『人の息子に何してらっしゃるんですか、意の背さん』



低くイノセントの背後から
不機嫌な声が響いて来る。





『…お前っ、真木の……姪!?』


『そんなに背、縮められたいんですか…?』



あからさまな殺気が
イノセの元へと
吹き付ける。





『お前、どっから涌いて出た…!(俺の背後を取るなんて……)』


『ちょっと書庫に用があって帰って来てみたら、何ですか。ウチの息子に何しようとしてました? 答えによっては、この時幻党から貴方を追放致しますですよ??』


《プンスカ!! プンスカ!!》


『やんのか、このアマァ…!!』


──ゴゴゴッ…


『ちょちょ、ちょっと待って下さい…!!』



険悪なムードに我に返った優人が
二人プラス一匹の仲裁に入った。















黒衣に事の成り行きを大まかに説明し
一つ足りなくなってしまった
チャーハンおむすびの件を詫びて
優人はひたすら頭を下げた。

その際、視界へ入って来た
黒衣の足へと絡まる白猫に優人は
彼女を呼んで来てくれたのが
彼であったのだと悟る。





『ありがとう、猫くん…』



そう言って黒いブチのある頭を
優しく撫でてやると白猫は
グルニャンと一つ鳴いて
喉を鳴らし目を細めた。

どうゆう訳か庇われる形となった
イノセントロアは、困惑した様子だったが
頭を巨大プンスカにカジカジされる内
『用事を思い出しました』と言って
その姿を眩ましてしまった。

優人は黒衣と巨大プンスカ、
それと白猫に別れを告げ
祟場達の居るリビングへと向かう。





『……………』



俯き加減で渡り廊下を
引き返す優人の元へ
甘い風が吹き抜ける。





『……何つーか、悪かったよ。ちょっと、からかったつもりだった───』


『……………』


『お前、祟場と一緒に命狙われて此処来たんだってな』


『……………』


『命狙われて此処来たのに、俺みたいなのに付き纏われて嫌だったよな…』


『……………』


『そうだ。成り代わりに嫌気が差したら、いつでも俺んとこ来いよ。俺の下僕にしてやる!』


『……………』


『……おい、何とか言えよ』


『イノセさん』


『お? な、何だ…?』


『“凝血剤”の使い道って分かりますか? 黒衣さんに持たされたんですけど。…ああ。やっぱり、怪我した時とかの為ですよね。深く考えるまでもなかったか……って、イノセさん…?』



ギャー!!という叫び声と共に
イノセントロアは今度こそ
優人の前から姿を消した──。








『……あれ?』←素




 
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