異邦人大系 第三部

□祟場の過去
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優人は祟場の言う通り
その晩、祟場の部屋を訪れた。





『────先生、俺に話って何ですか?』


『ああ。まあ、その辺に座れ』



優人の髪から雫が落ちる。








『話すなら、今だと思ってな。そう何度も話す事はないと思うから、しっかり聞いてくれ──』


『………、はい』















交って、気儘な独り旅。
様々な世界を見て回れば
辿るべき己の末が見える気がした。






Several years ago
────数年前








《………宍倉》





《遅ぇよ…マコっちゃん》






全部、覚えてる。
どの世界の出来事も。
鮮明に、鮮明に───。
嬉しかった事も、悲しかった事も
全て、頭の中。今も色付いてる。
どれも到底が虚しくて
冷たい思い出だったけど。







《………何が、あった……?》






悲劇を辿る。悲劇に終わる。
何回目の事だったかな。
足元に転がる幾多の抜け殻に遭遇するたび
俺は底の無い虚無感を抱き続けてきた。
死体、死体、死体、死体。
俺が知る別れとは凡そ死と連なり
その繰り返しが次第に
感情感覚を麻痺させて行った。
悲しみよりも痛みが大きくて
『ああ、終わりだ』と
終末を悟れど、涙を流す事さえ
出来なくなってしまって。
淡々と、その『痛み』だけを
知る無機質な人間に成り下がっていた。






《ぶつ…かったんだ…警官隊と…学生班が、》






その世界は、酷く荒れていた。
作品名は不明。ただ武装主義国家で
テロリストなんかそこら中
五万と溢れていたから
日夜、時間も問わずに
暴動が起きたりして。
一日に何千人もが死んで行く
そんな悪夢に満ちていた。
腐れた日常茶飯事。
人の生死が余りにも軽率で
大人も子供も、みんな
“自分を守る術”としては
極当たり前に武器を所持してるような
荒れ狂った世界だった。
無意味に冷たくて根深い
『絶望』に覆われていた。
きっと、そこに核心は無かったろう。
誰かの一夜の夢かもしれないし
悪意ある者の歪んだ妄想かもしれない。
或いは名もなく生まれ過ぎ去るだけの
ほんの小さな『悪夢』の欠片。
どんな物語においても
ただ、絶望や悪意は世界の敵だった。
人を貶め引きずり込む闇の創生。
人が最も恐れるべき仇敵。
あの夢はそれに満ちていた。




 
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