電霊‐LOGICAL PARADOX‐ (仮)

□遠い日の記憶
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#000『遠い日の記憶』






私には名前が無かった。
生まれた時から、そこに有り
ただ黙って世界を見ていた。
私には意味が無く
ただ、呼吸をする為だけに
生まれて来たのだと思っていた。




『…おー。いたいた。お前か、火を食らう異形ってのは』




『……………』






幾年、そこに居たかは判らない。
ただ、ある時、一人の男が
不意にやってきて怖じ気づく事もなく
私に声をかけてきた。
微笑みを湛えていたが
その眼は鋭く、私を
敵視しているのが判った。
直ぐに身の危険を感じ、身構えたが
何を思ったか彼は、その場に座り込み
呑気に話しかけて来た。





『俺よ、上から命じられて、お前を殺しに来たんだけど。何か言い分ある?』




『………………』




『普段ならよ。問答無用なんだけど。火を食らう異形って何か変わってんなって。ちょっと興味あるんだ』




『……………』




『だから。ちょっとコンタクト、取ろうと思ったんだけど。お前何か言い分ある? つうか、俺の言葉は、判る?』




『…………』




男は私を狩りに来た浄化師だった。
かつて何百年と、私を
殺しにやって来た者はいたが
全て、焼き払ってきた。
例え自負した無意味な命でも
私は生きていたかったのだ。
他者を殺し、自分を守る為だったなど
浅はかな言い訳に過ぎない。
償い切れずに花を手向けたが
いつも胸は酷く痛んだ。
私の姿が人を脅かすならば
私は、人知れず生きねばならない…。
私が生まれて来たこと自体
罪だと言うのだから。





『黙って聞いてる所を見ると判ってんだろうなぁ。普通の異形ならさ、まず、アーアー喚きながら駆け寄ってくるわ』




『………何が。目的だ』




『お!! ほら、やっぱり喋れるじゃん!! 流石は変異種!!』




『目的を訊いている』




『目的? そうだな、明確にはねぇけど。あ、何なら式神契約すっか?』




『私は、人間などに仕えない』




『まぁ、そう言いなさんな。ずっと変だと思ってたんだ。この神社からハンパない霊気を感じるのに、この付近では異形や霊的被害が圧倒的に少ない。お前の霊圧が他の害意を遠ざけてる』




『……………』




『お前は、どうやら。異形からも敬遠されてるらしいな』




『放っておいてくれ』







 
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