電霊‐LOGICAL PARADOX‐ (仮)

□虚空、司りしもの
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#000『虚空、司りしもの』




風が吹き抜ける思い出の中。
月は紅く、ただ照らすだけ。
その光は優しく在って生温く
決して、闇を切り裂きはしなかった。
ならば底無しの夜を彷徨う者に
誰が光を届けるのだろう。
思いを託したこの声は
もう、彼に触れる事さえ
叶わないのだから。




『氷堂さん』


『あー?』


『近頃、この辺りで、霊魂や異形、魔物や神の類までもが実害報告もないのに、無差別に駆除されているのを知ってますよね?』


『ああ。報告は入ってる』


『では、この無駄な神狩りが、土地にどう影響を及ぼすかも、お分かりですよね』


『そら、秩序を崩すわね』


『ならば早急に対処せねばなりません』


『そーね』


『…………氷堂さん』




上の空。心無く、声を発する。
心底どうでもよさそうに。
あの島から帰還した後
彼はまるで別人のように
変わってしまった。
前々から、その闇の深さには
気がついていたけれど
あの凄惨な事件を機に
その充満していた闇が外に
溢れ返ってしまったのか
戦いの中以外で楽しそうに
笑わなくなった。
ただ一日中、何か考え事をしていたり
彼の表情からは心が見えなくなった。



『なに?』


『貴方は人間ですよね?』


『………は?』


『人並み外れて何処まで行こうが、貴方はただの人間です』


『どうした、突然』


『どうか、そう努めてください』


『…………火捕辺、』


『この事件の犯人が誰なのか、何故そんな事をするのか、僕には察しがついています。誰とは言いませんがね』


『………。そうか』


『だから、早急に対処願います。この事件が収束すれば、上層部も黙るでしょうから』


『…………火捕辺よ』


『はい』


『それは、当て付けか? 忠告か?』


『忠告です』


『……あんがとさん』



狂い始めた歯車は
簡単に戻せないと知っていたけど。
それでも、まだ信じていたかった。
人外の僕を人間にした彼が
人間から遠のいて行くのが
痛くて仕方なかったから。



『火捕辺』


『…………』


『もしも。いつか俺がな。イカレちまったら』


『はい』


『止めてくれや。全力で』


『…………了解』




日に日に闇に呑まれ狂い行く自分に
見限りをつけていた彼は
僕に酷な命令を残し、数日後
世界の全てを『敵』に回した。




 


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