電霊‐LOGICAL PARADOX‐ (仮)

□絶望モラトリアム
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『なあ、火捕辺よ』


『はい』


『俺は思うんだが。異形も人もさして変わらないんじゃないかと』


『何故?』


『対極でいて同列。俺の死生観で言わせて貰えば、死のうが生きてようが同じことなんだ』


『……………』


『だから、どちらかを悪とするのは。善の対極を悪とするのは間違ってる。同列にあって対極に位置するならば、そりゃあ一本の延長線上にあるもんだ。そこに何故良いだ悪いだと分別をつけようとするのかね』


『……愚問ですね。太古の昔より善悪は分けられてきたんですよ。絶対者の手によって』


『ああ。国も種族も越えてな』


『この世界に。国に、都市に、氷堂秋人と言う肉体の檻に閉じこめられ、人間として分け隔てられ生まれてきたその時から。アンタはその絶対者の手駒としてこの世に存在する一つです』

『………手駒ねぇ』


『異形が人を食らうのも人が異形を殺すのも同一ですよ。ただ違うのは、何を遂げようとしているのか、だけです』


『…お前は賢いねー。俺とは違う。人として生まれてたならさぞ徳の高い人間になれただろうさ。聖人君子なんつってよ』


『聖人なんてこの世に存在しませんよ。全ての出来事は人の為と銘打っただけで、本質は自己陶酔の一環です』


『あらやだ。変な所でシビアなのねぇ、火捕辺ちゃん』


『アンタほど純粋じゃありませんから』


『嫌味か、それ』



静かな夜に溶ける。少し笑って。
風に舞う灰は音もなく散華して
無数の命が世界に還った。
宥め賺して夜を超える。
その闇に蓋をするのは
まだ壊したくなかったから。
雲行きは怪しく、深い闇が
すぐそこにまで迫っていたけれど、
僕に出来る事は、いつもただ
彼の隣にいることだけだった。





#000『絶望モラトリアム』


 
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