異邦人大系 読み切り版

□プロローグ
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#プロローグ








「あっ!」


──バサバサバサ


「あ〜あ、やっちゃったぁ…」


「大丈夫?」


「?、あ。ありがと───」



天津の諜報室へ向かう廊下。
俺は、その娘と出会った──。

その日、俺はというと
会議に使う沢山の資料を
抱えて廊下を歩いていた。
その時、不意にズキリと
昨夜の傷が痛んでつい
抱えていた資料集を
落っことしてしまった。
一つ溜め息を吐いてから
完治とはまだ言えない
屈む事さえ億劫な身体で
散らばってしまった資料を
慌てて拾い集めていた。
そこへ声を掛け、更には
一緒に資料を拾うのを
手伝ってくれたのが
彼女だった────。





「君、よく祟場さんと居る子だよね」


「…あ、はい。祟場は僕の師です」


「へぇ〜。祟場さんのお弟子さんかぁ〜」



華奢な身体、端正な顔立ち
可愛らしい娘だと思った。
そして、その何よりも。
優しい娘だな、って──…。





「君は?」


「鈴萌」


「…鈴萌さん。確か、黒峰さんの──」



あれ?、弟さんだって
聞いた気がしたけど…
俺の記憶違いだったかな?





「どうかした?」


「あ、いや。何でもないです…」



慌てて散乱した
資料達を掻き集める。








「───あの、ありがとうございました」


「ううん。気にしなくていいよ」


「いえ、本当に助かりました」


「堅苦しいなぁ、もう──」



それに彼女は笑った。








「あ!」



別れ際、彼女が振り向く。





「そういえば。君の名前、まだ聞いてなかったね」


「……陣内、です」


「陣内君。じゃあ、またね!」



小さく此方へ手を振ると
その娘は元気に駆けて行った──。








────────────・・・
──────────・・・





「──てな事が、ついさっきあったんです」


「………。まぁ、彼女?と仲良くするのは構わんが、呉々も惚れるなよ」


「はぁ!? ほ、惚れませんよ!! 俺、そんなに惚れっぽくもありませんし!!」


「どうだかな…」


「ちょっと、先生──!!」


「…もし、惚れたらアレだ───。」


「え?」


「いや…。何でもないよ────」


「……??」



言葉を濁した先生のその意味を
俺が思い知らされるのは、
まだ、もう少し先の事─────。




 
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