異邦人大系 読み切り版
□プロローグ
1ページ/1ページ
#プロローグ
「あっ!」
──バサバサバサ
「あ〜あ、やっちゃったぁ…」
「大丈夫?」
「?、あ。ありがと───」
天津の諜報室へ向かう廊下。
俺は、その娘と出会った──。
その日、俺はというと
会議に使う沢山の資料を
抱えて廊下を歩いていた。
その時、不意にズキリと
昨夜の傷が痛んでつい
抱えていた資料集を
落っことしてしまった。
一つ溜め息を吐いてから
完治とはまだ言えない
屈む事さえ億劫な身体で
散らばってしまった資料を
慌てて拾い集めていた。
そこへ声を掛け、更には
一緒に資料を拾うのを
手伝ってくれたのが
彼女だった────。
「君、よく祟場さんと居る子だよね」
「…あ、はい。祟場は僕の師です」
「へぇ〜。祟場さんのお弟子さんかぁ〜」
華奢な身体、端正な顔立ち
可愛らしい娘だと思った。
そして、その何よりも。
優しい娘だな、って──…。
「君は?」
「鈴萌」
「…鈴萌さん。確か、黒峰さんの──」
あれ?、弟さんだって
聞いた気がしたけど…
俺の記憶違いだったかな?
「どうかした?」
「あ、いや。何でもないです…」
慌てて散乱した
資料達を掻き集める。
「───あの、ありがとうございました」
「ううん。気にしなくていいよ」
「いえ、本当に助かりました」
「堅苦しいなぁ、もう──」
それに彼女は笑った。
「あ!」
別れ際、彼女が振り向く。
「そういえば。君の名前、まだ聞いてなかったね」
「……陣内、です」
「陣内君。じゃあ、またね!」
小さく此方へ手を振ると
その娘は元気に駆けて行った──。
────────────・・・
──────────・・・
「──てな事が、ついさっきあったんです」
「………。まぁ、彼女?と仲良くするのは構わんが、呉々も惚れるなよ」
「はぁ!? ほ、惚れませんよ!! 俺、そんなに惚れっぽくもありませんし!!」
「どうだかな…」
「ちょっと、先生──!!」
「…もし、惚れたらアレだ───。」
「え?」
「いや…。何でもないよ────」
「……??」
言葉を濁した先生のその意味を
俺が思い知らされるのは、
まだ、もう少し先の事─────。