電霊‐LOGICAL PARADOX‐ (仮)

□遠い日の記憶
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#000『遠い日の記憶2』






『人語が喋れるってだけで十分、希少種だ。連れ帰ったって上は何にも言わねーだろうし』



『お前に仕える気は無い。帰れ』



『いんや。お前は、俺の下につくか、死ぬか。二つに一つだな。俺が今そう決めた』



『……………』




『お前が死ねば。この辺りの秩序も狂うだろうな。けど、まあ。その為に俺達がいるんだし。問題ない訳よ』




『…………………』




『どうする?』





相変わらず座ったまま
ニヤリと笑って私を射抜いた。
殺気と得体の知れない威圧感。
恐怖。逃れようは無いと悟った。
寿命と言う概念を以てするなら
在るが儘、終わりを受け入れるしか
無かったのだが……





『いつの世も身勝手だな。人間とは……』





瞬間的に。領域を焼き尽くす。
炎は私と彼を取り囲んだ。
持てる霊力の全てを相手に向ける。
たかだか人間一人、何を
恐れているのかと思えば
何処か可笑しくて、笑えた。
ただ、そこまでしないと
勝てない気がした。
この男は、ただの人間じゃない。





『おぉ。やるね。すげーじゃん。火の結界か』





私は、火を司る者。
全てを焼き払い、無に帰す。
人ならず生まれて心を持ち
人外としても成り立たぬ存在。
悲しみなど無く、ただ恐れ
虐げられる者――――。





『けど。悪いな。お前の炎よりも、俺の冷気は上だ』






――――――――――――…
―――――――――――…







死闘の果て。男は左眼を負傷し
私は左翼を失った。かつては
空を飛ぶ事も出来た羽も
今では退化して飾りに過ぎず。
傷だらけの身体に
夥しく溢れかえる熱は赤く
私は初めて自分の血液を目にした。




『…だから、言ったろ? 死ぬか、俺につくか、二つに一つだって』




『……、』




『あぁー。痛ぇ、マジ痛ぇ。お前、ピンポイントで目ぇ、狙うなよな…ただでさえマトモじゃねぇのに…どうすんだよ、見えなくなったら』




『…………私は、』




『あ?』




『生きて、いたのだな…』




『………?』




『命として…存在していた』





生に執着する余り。
生を履き違えていた私は
生まれて初めて、命の意義を知った。
死にたくない。心の底からそう願い
生まれて初めて涙を流した―――――。







 
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