異邦人大系 読み切り版

□ある晩の悪夢《読み切り版》
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今日の夕方、国津の廊下にて
偶然にも彼等と鉢合わせた。
何やら揉めてる様子で
ギャーギャーと三人して
騒いでいた所を俺がたまたま
通り掛かったばっかりに自分は
今回のその任務とやらに巻き込まれた。





『…………、』



どうやら、どちらが
鈴萌さんと組んで
潜入するのかに
ついて揉めていたらしい。
鳴神と霧島君が互いに
“鈴萌さんの彼氏役”を
擦り付け合っていた所へ
選りにも選って俺が
通り掛かったりなんか
したものだから。
二人の気持ちは判る。
こんな気恥ずかしい任務
俺だってもう二度と願い下げだ。
そして、鈴萌さんの気持ちも判る。
彼女だって好きでその彼女役を
買って出た訳でもないのに
男二人がその彼氏役を
目の前で擦り付け合い始めたら
頭にだってそりゃ来るだろう。
でも、何もだからってそんな
その相手に俺なんかを
選ぶ事もなかっただろうに、何で……。





((──もう、いい! 想ちゃんにも霧島君にも頼まない!! 私、陣内君に彼氏役になって貰うからっ!!))


((……えっ?? 何? ちょっと待って、話が飲み込めない…))


((おー。いいじゃねぇか、決定〜))


((似合ってる、似合ってる))


((は…? 一体、何がどうなって……))



満場一致、断れなかった。
今回の任務の内容は
国津のお上さんの
その娘さんが付き合ってる
男というのが、どうも
ここ最近、界隈を騒がせている
人喰いなのではないかという情報。
本来なら、その任務遂行は退魔師のみ
の手で行われる。幾ら自分が最近、
国津を出入りしているからって
退魔師でもない俺が、まさか
この事件にこんな形にて
関わる事になるなんて──…。





『大丈夫、心配しないで。何かあったら私が陣内君の事、守るから───』


『鈴萌さん…』


『だから、任務中は私の事“鈴萌ちゃん”って呼ぶ事。いい? 優くん』



悪戯っぽく微笑んだ彼女に
軽く赤面してから頷いた。
年下の、然も女の子に
『私が守るから』なんて言われて。
せめて彼女の足を引っ張らないように
しようと、俺は自分へ誓った。








『──て。えっ、ちょっと、待って…』


『?、どうかした? 優くん』


『此処って──…』



ラブホテル。まさかの展開。





『───す、鈴萌ちゃん…。まさか、中にまで入ったりしないよね?』


『場合によってはね。今の内に覚悟、決めといて』


(う、嘘だろっ…??)



幾ら任務の為とはいえ
高校生の自分達がこんな…。
俺は思いっ切り取り乱していた。





『──来た、あの男…』



落ち着け、これは潜入捜査だ。
自分へと言い聞かせる。
今回の任務のターゲットは
主に女性を誑し込めては
食い物にする人喰い鬼。
その被害は若い女性に
集中していた。張っていた
上役の娘とやらの女性と共に
ホテル内へと入って行く。





『行こ、陣内君』


『う、うん…』



カップルを装い入り口を通過した。
男と女性を尾行してホテル内へ
自分達も足を踏み入れる。




 
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