短編集

□星空は遥か
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満天の星空をつたって、何重にも重なった虫の音が聞こえてくる。

すぐ近くでも、先ほどから1匹鳴き出した。

リリリ……というその音を、馬車にもたれて聴きながら、バルサはほうっと息を吐いた。


この隊商の護衛をして、旅に出てから、もう10日経った。


ここしばらく、青霧山脈の麓の庵で羽を休めていたのだが、

どうしても、心の中にふと、どこかに流れていきたい……という気持ちが沸き立って、こらえきれず旅に出てしまったのだ。

『行くよ』

そう告げたときの幼なじみの表情が、脳裏に蘇る。

バルサは、匙でざくざく掬えそうなほどの星星を見上げて、ふっと笑った。

(今頃あいつは、何をしてるかな……。)

そろそろ、寝具を広げる頃だろうか。


涼やかな夜の風が、肌を撫でていく。


もう、隊商の者は皆、寝静まっているのだろう。

見張りの交代まで、あと半ダン。

眠くはない。だが、1人で起きているこんな夜には、あの青霧山脈の家を思い出す。

仕事に生きていると、人肌恋しくなるのだろうか。

だからたまに、ふらりと家に帰っても、しかし必ず旅に出てしまう。

あいつの気持ちは、分かっているのに。

自分でも矛盾していると、分かっているのに。

……ただ、その矛盾を正す術を、知らないだけなのだ。



家は、果てしなく、遠かった。





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