過去 拍手SS

□桜舞ウ頃ニ
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 ::桜ノ舞ウ頃ニ::

   主劇:大久保



「そのような恰好では風邪をひくぞ」


小娘の部屋を訪れて、そっと羽織を掛けてやる。

人形のようにただ座る小娘は

もう以前の様にコロコロと表情を変えることもなく・・・

死んだ魚の様な瞳で、起きているのか寝ているのかもわからん。


・・・小娘の瞳に、私はもう映らない。



サワサワと桜の花が風に揺れる。


「・・・そろそろ、桜が満開だな。」


手を取り、髪を撫でつける。

何度も名を呼び、伝わる事の無い想いを口にする。



あの日、感情のままにこの娘を抱いた。

押さえきれない感情をぶつけ、自分のモノにならないのなら、いっそ壊してしまいたいと。

泣き叫ぶ小娘を、乱暴に自分の身体へと押し込めて、そして欲情を内へとぶち撒いた。


こんな小娘一人相手に、自分の慾も抑えきれずに。

それで日本を救おうなどと、どの口が言える。

小さな頬を伝う涙。恐怖に怯える小娘の姿を夢に見て、魘される毎日。

ふん、当然の報いだ。


眼から光を失い、言葉を失った小娘の姿。

私の言葉など、二度と届かぬ。



・・・これで満足か?



壊してしまいたいと願った愚かな過去の自分に何度問うただろうか。


生きた屍となった小娘の部屋で、一冊の日記を見つけた時には、震えが止まらないほどの笑いが込み上げたものだ。

何処を開いても、ミミズののたうち回るような下手な文字で同じ単語が綴られていた。


『大久保さん』


今日も大久保さんに嫌味を言われただとか。また今日も大久保さんは意地悪だとか。

小娘らしい、くだらん内容ばかりだ。


『大久保さんに、私の気持ちなんて分からない。いつになったら子ども扱いされないようになるのかな。ずっと一緒に居たい。私、本当に大久保さんの事が大好きみたい。やっぱり、私の気持ち、伝えた方がいいのかな。』

それを最後に、その先の日記が綴られることはなかった。


ふっ。馬鹿げている。

私が欲していた小娘の心など、とうに手に入っていたと言うのに。

そんな事にすら気づかないほどに私は狂っていたのか。


愛した男に。

信頼しきっていた男に・・・

無理やり手籠めにされる心情など

想像もつかないほどに悍ましいモノだろう。



一度でも、愛していると言ってやればよかった。



だが。

もう今更そんな事を言った所で、どうにもならんことだ。




「愛している。生涯お前だけを愛すと誓う。」




光の失われた小娘の耳元で

今日も、伝わらない思いを言葉にする。


小娘の瞳が、くるりと鈍く光を灯したように見えたが、それはきっと見間違えだろう。






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