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□やまない雨に
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【やまない雨に】
昨日から降り始めた雨は、一向にやむ気配を見せない。
空は一面、黒い雲で覆われ、大粒の雨を降らせていた。
梅雨に入ったから仕方がないのだけれど…
ここ数日、ぐずついた天気が続いていた。
「雨、やまないかなぁ…」
私は恨めしそうに空を見上げた。
明日は久し振りに大久保さんとお出かけするのに・・・
それは数日前のこと。
「紫陽花でも見物に行くか。」
突然の大久保さんの誘いに、勿論私は二つ返事で答えた。
京の外れに、たくさんの紫陽花が咲くお寺があるという。
いつも忙しい大久保さんが、どこかに連れていってくれるのは珍しい事。
ゆっくり二人で出かけるなんて、この先二度と無いかもしれない。
お陰で、大久保さんは部屋にこもり、殆ど私に構ってくれないけれど。
明日の紫陽花見物ができるように、仕事をこなしているのだと思う。
夜遅くまで、大久保さんの部屋から灯りが消える事はなかった。
「そうだ!!」
私は憂鬱な気持ちを払いのけるように立ち上がった。
**************
「小娘。それは一体何の呪いだ。」
早速、作ったばかりのてるてる坊主持って、縁側で奮闘していると、後ろから声をかけられた。
勿論、そんな失礼な事をいうのは一人しかいない。
「おまじないですよ。呪いとか言わないでください。」
軒下に、2つ目のてるてる坊主を吊るしながら、私は口を尖らせた。
この時代では、てるてる坊主って作らないのかしら。
そんなことを考えつつも、踏み台に乗り、つま先立ちで手を伸ばした。
なかなか紐がうまく引っかからず、ぷるぷると震えてしまう。
「…滑稽だな。」
ひどっ!!今鼻で笑いましたよね?!
大久保さんを睨めつけようと、勢いよく振り返ると、そのままバランスを崩してしまった。
「きゃぁっ!!」
ガタンと踏み台が揺れ、体が傾く。
視界が反転し廊下の床が目の前に迫る。
思わず目をつぶった。
「まったく。もう少し落ち着いた振る舞いができないものか。」
「あ・・・」
すんでの所で、私は大久保さんによって支えられていた。
間近で顔を覗きこまれる。
何を思ったのか、大久保さんはぷにぷにと私の頬をつまみ始めた。
(な、なんなのよ〜〜っ////)
身動きが取れずに硬直していると、ふんっと鼻で笑われた。
「痛っ!」
最後にピンっと頬を弾いて。
「重い。いい加減自分の足で立ったらどうだ。」
ちょっ!!///ひどっ!!///
私は慌てて体制を整えると、優しく背中に添えられた手が、ゆっくりと離れていく。
酷い事言う癖に、行動は優しいから怒るに怒れないのが大久保さん。
私の心境などお構いなしに、大久保さんは、てるてる坊主を拾い上げた。
そして、簡単に軒下へと吊るす。
「あ・・・ありがとうございます。」
素直にお礼を言うと、
「何のまじないかは知らんが、私が吊るしてやったんだ。すぐに叶うであろう。」
ふふんと口先だけで笑って、そのまま行ってしまった。
気が付けば、心なしか雨脚が弱まってきている。
「・・・すごいかも」
みるみるうちに雨足が弱くなり、見上げる空は明るい。
「さっきまで、あんなにざぁざぁ降りだったのに・・・」
ホントに大久保さんは、すごい人だ。
天候までも変えてしまう能力があるのかも。
いや、きっと大久保さんにしたら、そんなのは簡単な事なんじゃないかと思ってしまう。
〜やまない雨に〜完