過去 拍手SS
□七侍的SS@
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〜七侍的SS〜
どうも♪
こちらでお会いするのはお初となりますね。
現在、長州藩邸・広間では、薩摩の大物二人を招いて、難しい会合が開かれている真っ最中でございます。
勿論、仲介役として、龍馬たち寺田屋組も参加しております。
訪れた当初から、大久保はめちゃくちゃ機嫌が悪いッス。
機嫌の悪さをあからさまに顔に出してます。
そんな彼を、龍馬と慎太郎が何とか宥めて、話し合いは進んでいます。
とりあえず、進んではいたんですけどね・・・・
広間は相変わらず重苦しい空気ッスね。
慎太郎は終始俯き、何かをこらえる様に肩を震わせてます。
そして以蔵は呆れた様にそっぽを向き、武市は無表情。
龍馬は事の成り行きをハラハラと見守っている。
・・・って感じです。
訪れる暫しの沈黙。
高杉と桂を前にし、大久保が口を開いた。
「・・・で、君たちは私達を馬鹿にしているのか。」
「ったく。・・・一体何を聞いていたらそうなるんだっ。これだから薩摩の奴らとは話が合わん」
高杉が喧嘩口調なのは今に始まった事ではない。
殺伐とした今までの関係を考えても・・・
そして煮え切らない薩摩側の対応からも、穏やかに話が出来るほど高杉の気は長い方では無いですからねぇ。
そんな高杉を諌め、今度は桂が口を開いた。
「私達は、お互い譲歩しないかと述べているだけだ。薩摩を馬鹿にする気は毛頭ない。」
こちらはいつもと変わらず、平静な態度を貫いていますね。
それが更に大久保の神経を逆なでしたのでしょう。
「坂本君、これは茶番か?くだらん余興に付き合わされるほど、私達も暇では無いんだがな。」
ぴくぴくと片眉を引きつらせて、矛先は龍馬の方へと移りました。
それに龍馬は、あ〜とかう〜とか、意味不明な声を漏らすばかり。
「お前も何か言ったらどうなのだ。」
急に話を振られたのは西郷さん。
存在感が薄くて、忘れちゃいそうでしたが、彼も同席してます。
高杉と桂を前にし、沈黙を貫き通していました。
じ〜っと目を閉じたまま、身動きひとつしません。
「・・・」
大久保の問いにも反応を示さず、目を瞑ったまま腕を組んでます。
念のため、言っておきますが、彼はちゃんと起きてますよ。
ピクリとも動かないので、寝ていると勘違いされても困りますからね。
「ま、まぁまぁ。これにはいろいろとふかーい事情があるちや。大久保さんも細かい事は気にせんと・・・」
ぎろり、と大久保の視線が龍馬へと移る。
「このふざけた頭をした阿呆の相手を、私がしろというのか?!」
勢い余って、大久保が立ち上がった。
・・・大久保さんの怒りも当たり前なんですけどね。
「・・・ふざけた頭なのは間違ってないな。」
以蔵がぼそりと言った。
呆れてものも言えん、とため息交じりだ。
「あっはっはっは!!!」
おおっと。
突然の事で驚いてしまいました。
この緊迫した空気の中、弾けるような笑い声の主は、西郷さんです。
冷静に見える彼もまた、笑いを耐えきれなかったんですね。
「いやぁ、長州の方はおもしとか方じゃっどなぁ。笑わせてもろたど。」
豪快に笑い、尚も笑いが止まらないのか、涙目でひいひいと身をよじらせてます。
それを引き金に、慎太郎も身を崩した。
肩を震わせる程に我慢してましたからね。
もう、溜まらないといった感じでゲラゲラと笑い転げてます。
「す、すんません・・・クククッ」
笑いを止めようと必死になるも、二人の姿に再び笑いが込み上げる。
無理もないです。
この大事な会合に、高杉は前髪をパイナップルの様に縛り上げ、ご丁寧に赤いリボンとかつけちゃってますし。
桂はその綺麗な髪をツインテールにし、おまけに三つ編みにしちゃってますから。
「こっちは真面目にやってるんだ!!」
いやいや、その髪型でマジメにと言われましても・・・
ついでに何ですか、額に書かれた目は。
貴方の第三の目は、何処の少女マンガですか。
パッチリ睫毛に中に星が何個も入ってますね。
「やはり、彼女の案は拒否するべきだったか・・・」
桂さん、落ち込み始めちゃいました。
西郷さんが、目を閉じてじっとしてた理由は、もうおわかり頂けましたよね?
長州との話し合いはいつまでたっても平行線。
今度こそは。
・・・薩摩としてはどう切り出そうか。
そんな事をぐるぐると真面目に考えていた訳ですよ。
でもって、迎え入れられた先には、珍妙極まりない長州の大物。
さすがの西郷も意表を突かれ、戸惑った事でしょう。
それでも西郷さんは堪えました。
視界を閉ざし、平静を取り繕った。訳です。
ですが、ソレが仇となったのでしょうね。
必死で堪えることで、それが次第に馬鹿らしくなった。
沸々と湧き上がる笑いに、耐えきれなくなっちゃったんです。
慌てて龍馬が弁解を始めましたね。
「こりゃー、なんつうか、友好的なんを表す為っちゅーか。敵意が無いっちゅう・・・」
言う彼もまた顔を歪ませて笑いに堪えているのは言うまでもない。
「未来の友好的表現と言うものは、薩摩の方々には通用しないということか・・・」
冷静に分析しちゃってるのは武市先生です。
「全く、このくだらん余興を考え付いたのは・・・・」
さすがにここまで来ると、大久保にも察しがついたと思われる。
大久保の声を遮って、可愛らしい声が響いた。
「私だよ。どうせ、怖い顔で挑発すると思ったから。」
ひょいっと顔を出したのは、くりくりと愛らしい瞳の彼らのお気に入りの人形(ドール)。
お茶を持って現れた毒舌人形に、顔を緩める志士が多数。
薩摩と同盟を結ぶ、大事な会合と聞いた彼女。
何度となく開かれた話し合いは、お互いに納得できず、喧嘩で終わってしまうと言う。
そこで彼女は、余計なことを考えたんですよね。
これから仲良くしましょうっていう相手に、どうせ睨みつけたり、怖い顔するだろうから。
せめて『髪型だけでもお茶目にしておけ』と言った張本人。
「小娘。」
大きなため息と共に、大久保は彼女に手招きをした。
素直に目の前に座る彼女の両のこめかみに拳骨をぐりぐりと擦り込ませる。
「こ・れ・は、小娘の浅知恵か。」
目の前に火花が散ったような衝撃。
「ぎゃーー!!いたいいたいっ!!なにすんの!この悪魔!!変態!!」
大久保の目の前で、大音量の鈴の音が鳴り響く。
「煩い。ぎゃあぎゃあと騒ぐな。」
思わず手を離し、耳を塞いだ。
「全く、この脳みその足らん小娘の浅知恵などに耳を貸すとは・・・」
高杉だけならまだしも、桂までもが耳を貸したという事実。
大きくため息をつく大久保の顔には『呆れてものも言えない。』と書かれているようだ。
「こや、もじょか娘さぁだ。」
隣で気さくな笑顔を向ける西郷に、こめかみを押さえながら彼女はぺこりと頭を下げた。
「こんにちは。」
「こんにちは。はじめましてじゃっどなぁ。」
彼女の登場で、がらりと雰囲気が変る。
今までの殺伐とした空気はどこへやら。
急に穏やかな雰囲気が当たりを包み込んだ。
「西郷と申しもんで。」
頭を下げる西郷に対し、大きな瞳は面白い物を見つけたようにキラキラと輝く。
そしてクスクスと可愛らしい笑みを漏らした。
「わぁ。もしかして西郷さんって、隆盛さん?」
「おお。知っとうのか?そや光栄やね。」
穏やかに弾む会話。
「うんうん。知ってるよ。犬の人!!」
それには西郷も笑った。
彼女の無邪気な可愛らしさに、西郷も自然と穏やかになってしまうのか。
「確かに、犬はすっじゃよ。」
彼女に向けられる眼差しはとても柔らかい。
「ねえねえ。それより『あれ』・・・気に入らなかった?一生懸命やったんだけど。」
彼女の指差すは、高杉と桂。
『あれ』と呼ばれた高杉と桂の表情は何とも複雑だ。
「はっは。君がやったのか。たのしませてもろたよ。」
「よかった。西郷さんっていい人ね。」
どーぞ♪とお茶を差し出して、満面の笑みを浮かべる。
ソレは彼女の一つの武器。
本人は気づいてるんでしょうかね。
良くわかりませんが、使い処を知り尽くしてるんですよね。
西郷さんの頬は緩みっぱなしです。
「おもしとか女子じゃっどな。今度、うちに遊びに来んか?」
あらあら。予想外な所から横やりが入りましたね。
西郷の突然の誘い。
慌てた志士が七人。
彼等の心情などに気づきもしない彼らの人形。
「うん!・・・でも・・・」
彼等の関係に気づかないほど、彼女は馬鹿では無い。
仮にも長州藩邸で世話になっている自覚があるのだろう。
彼女の曇る表情に、察した西郷は高らかに笑った。
「ほいなら、早急に話を進めんといけんね。」
彼等の視線は一斉に集まる。
何度となく開かれた会合。
お互い平行線のまま、全く持って話が進む事はなかった。
しかし。
彼女の登場に、いともあっさりと。
「親が仲良くせんと、子は安心して遊びに来れんからなぁ」
向けられる西郷の視線は、大久保を寄り道し、長州の二人を捕えた。
こうして、難航していた薩長同盟は・・・
一人の少女の登場により、あっさり結ばれようとしていたのである。
〜小娘ちゃんと七人の侍〜より
今よりちょっとだけ先のお話。
本篇では語られない薩長同盟のお話でした☆
☆おわり☆