過去 拍手SS

□七侍的SSA
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〜七侍的SS〜


ここは幕末・寺田屋。



「御用だ御用だ〜!!」


はい。今日も元気な彼等のお人形です。

意味不明な単語を叫びながら、武市の部屋の前を通過していきました。


「いったい何事だ・・・」


廊下を駆け抜ける小さな身体。

武市は眉間にシワを寄せて、その身体を見送った。


彼女の行動はいつだって予測不可能ですからね。

思考が付いていかないのは武市も例外では無かったみたいっス。


「・・・以蔵、今すぐに彼女を捕まえて来なさい。」

「しょ、承知しました。」


彼女を捕まえるなんて以蔵にとっては簡単な事でしょう。

すぐさま首根っこを掴まれて、武市の部屋へと収容されちゃいました。


それにしても、彼女の行動は、何時も理解しがたいっすね。


「・・・君は一体、何をしていたんだい?」


そもそも、女子が廊下を走り回る等、はしたない事だと、始まってしまったお説教。


うえ〜っと声を漏らして、小さな人形は身体を更に縮こませた。

「だいたい、何故にそのような格好をしているの?」

今日の彼女は羽織袴姿で、武市の前にお行儀良く座っています。

最近は着物で過ごす事が多くなった彼女。

女子らしい可愛らしい華やかな着物だったり、

色とりどりの鮮やかな着物だったり。

時にはしっとりと、彼女の愛らしい顔を引き立たせるような落ち着いた着物。

何処の誰からの貢物かは存じませんが、その趣向の数には送り主が多数なのは想像できますね。

すっかり彼らの着せ替え人形になってしまった様です。

しかし、今日の彼女はそのどれとも違う。


男物の羽織りに袴姿。

ちょっと長めの袴を引きずるように走り回る彼女は、実に危なっかしい。

彼女の羽織る、うすい水色の羽織に、武市は嫌な予感しか感じなかった。


「なにゆえ・・・って、新撰組ごっこしてたからだよ。」


その発言には、思わず面食らってしまった武市と以蔵。


一瞬の沈黙。

そして以蔵の怒鳴り声が響いた。

「馬鹿かお前はっ!!何故、よりによって新撰組なんだ!!」

先日、彼等は新撰組に追われたばかり。

不謹慎にも程があると、以蔵は怒りを露にした。


「馬鹿とは何よ。」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?!」

「じゃあ、以蔵だって馬鹿じゃない」


始まる口喧嘩に、武市はため息を漏らした。

「やめないか。以蔵も口に気を付けなさい。」

武市に言われてしまっては、以蔵も口を閉じるしかない。

「君には色々と、・・・躾が必要だね。」


武市の口角がゆっくりと上がっていく。

それには嫌な予感がして、彼女の顔が引きつる。

以蔵は当然だと言わんばかりに腕を組んだ。


「いいかい?そもそも『御用だ御用だ』と言って走り回るのは、新撰組では無く『岡っ引き』だ。」

「せ、先生っ!!そこですか!?」

武市のズレた指摘に、思わず以蔵の声が上ずる。

「何を言っているんだ。物事は正確に覚えなくてはいけない。君は『岡っ引きごっこ』をしていたんだ。」

「おかっぴき?」

「そうだよ。・・・それにしても、何故、急にそのような遊びをしようと考えたんだ?」


今日まで彼女は部屋で大人しくしていました。

彼らが忙しくて構ってられない時も、彼女は文句も言わずに彼等の帰りを待っていました。

時々、庭の掃除をしたり、食事の準備を手伝ったり。

以前から、言動の読めない彼女ではあったが・・・


突然そのような遊びを始めた理由。

武市先生はとにかく情報源が気になる訳です。

無知な彼女に、如何わしい知恵が付くのが気に入らないんですね。

彼女はそんな武市の心情など知りませんから、サラッと言っちゃう訳ですよ。


「暇だって言ったら、『この時代に合った遊びをしたらどうじゃ〜』って。」

以蔵は思わず舌打ちした。

「あいつかっ!!余計なことをっ・・・」

最後まで言わなくても、犯人が分かってしまうのが悲しい所。


もちろん龍馬は、『この時代の遊びをして楽しめ』という意味で言ったのであって

決して『この時代設定の遊びをしろ』と言った訳ではない。


派手に誤解した彼女は、ちょっとだけ悲しそうに肩を落とした。

肩を落とす彼女に、なるべく穏やかな口調で武市は言った。


「もっと女子らしい遊びをしなさい。」

「・・・わかったよ。気を付けるね。」


素直に謝る彼女に、満足そうな武市の笑みが向けられた。



―――― 翌日



「お前は何をしている・・・」


以蔵は眩暈を感じつつ、彼女に問うた。



床の間に座る人形・・・

正にお人形の様に、活けた花瓶の隣に正座する彼女。

後ろには掛け軸とか飾ってある、例の場所っすね。

そこへ現れた以蔵と武市。



「え、何って。市松人形ごっこ?」



・・・いろいろと突っ込みどころ満載。

確かに、武市は女子らしい遊びをしろと言った。

しかし、彼女流の『人形ごっこ』。

やってる本人は面白いのか?


「おまえ・・・本物の馬鹿だろう」

呆れる以蔵。


「・・・・」

武市はもう、言葉も出ないのか。




―――そしてまた翌日。




「正気ですか?!」


驚く以蔵を尻目に、武市は彼女の部屋を訪れた。


彼女に与えられた、新しい着物。

目の前には、白無垢。


「僕と一緒に『お嫁さんごっこ』をしないかい?」

優しく向けられる眼差し。何処まで本気なのか。

「随分と長くなる『遊び』だけど。僕は飽きさせない自信があるよ。」

元より、彼に『遊び』という概念は全く持って無い。

対して彼女は、満面の笑みで瞳を輝かせた。

「わぁ。昼ドラ設定?それともサスペンス?『未来から訪れた白無垢姿の花嫁』なんて面白そうね!!」

無論、彼女の言っている言葉の意味など彼等には理解できない。


「せ、先生・・・。」


こんなくだらん遊びに先生自ら付き合うのですか。

こんな馬鹿げた遊びにわざわざ白無垢を用意したのですか。


それとも本気ですか。


こんな馬鹿な娘を娶るのですか。

そもそもその様な騙すような形で貴方は満足ですか。


武市の彼女を見つめる視線は、何処までも柔らかく、そして黒い。


彼の視線に、以蔵は全ての疑問を呑み込んだ。



〜小娘ちゃんと七人の侍より〜

武市と以蔵と小娘ちゃん

ホントにあった話なのかどうなのか。

それはご想像におまかせいたします☆


☆おわり☆

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