薄桜鬼な世界

□〜浅黄色〜
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【剣道部・部室】


いつものように、部室に集まり千鶴の弁当を囲んでいた。

「…で、一君のクラスは何やるんだ?」

平助が玉子焼きを頬張りながら、既に次の獲物を探しつつ斎藤へと質問した。

「『仮装喫茶』をやるそうだ…」


そう、話題は文化祭。

ここ薄桜学園でも恒例の全校行事として、秋には文化祭が開かれる。

彼等は重い使命を担う側ら、一般的な高校生でもある訳で…。

今日のホームルームで、具体的な内容を決めたクラスが大半を占める。

そんな感じで、必然的に彼らの話題もそこに集中する。


「ま、定番だな。で、お前はどんな服を着るんだ?」

左之がパンをかじりながら、他人事のように聞いた。

「……侍の衣装を着る。」

土方の眉がぴくりと動いた。

「へぇ。女装でもすればいいのに♪」

沖田が面白そうに答える。

「で、千鶴ちゃんと平助のクラスは何をやるの?」

沖田の問いに、答えたのは平助。

「うちのクラスは劇をやるんだってさ!『白鬼姫と怪しい医者』ってやつ。…って!!新八っつぁん!!それ、俺のから揚げ〜っ!!」

土方の眉がぴくぴくと動く。

「…ふ〜ん。で、二人は何の役な訳?」

沖田の問いに、千鶴はちょっと恥かしそうに俯く。

「えっと。私が白鬼姫の役になってしまって…」

「そうそう、くじ引きで千鶴が白鬼姫になったんだよな。そんで俺は、山北っつう医師の役でぇ、白鬼姫に怪しい液体を飲ませるんだ!」

土方の眉が更にぴくぴくと吊り上る。

「沖田さんのクラスは、何をされるんですか?」

千鶴の問いに沖田はさらりと答えた。

「うちのクラスも劇だよ。」

「わぁ。沖田さんは何の役をされるんです?」

「嫌だなぁ。僕がそんな面倒な事に参加する訳ないじゃない。」

にっこりと笑う沖田に、いやいや、と声を上げたのは左之だ。

「全員参加だ。お前だけ不参加は認められねえぞ。」

それには笑って答える。

「だ・か・らぁ、面倒な台本を作ってあげたよ。裏方だって立派に参加したことになるでしょ。」


無論、いい加減な沖田がちゃんと台本なんて作る訳がない。

しかも『作ってあげた』と既に過去形だ。

この短時間で出来上がる台本に期待が出来るわけも無い。

沈黙を貫いてきた土方が口を開いた。


「…総司、内容を聞かせてみろ。」

「え?やだなぁ、土方さん。ネタバレしたらつまんないじゃないですか。」

「…いいから。さっさと内容を言いやがれ。」

問答無用な土方に、沖田は呆れた様に肩をすぼませて、仕方ないなぁとノートを取りだした。

単なる昔話ですよ。と前置きして、ノートを読み始める。

「えーと。昔々あるところに、若い男の集団がありました。彼等は鬼退治にに向かうため、無敵の栄養ドリンクを…」

「待て待て待て!!…おまえら、さっきから黙って聞いてりゃ!!」

「何か問題でもあります?」

「問題があり過ぎだろうっ!!!」

勢い余って机を叩きつけた。

「だいたい、誰の昔話だ誰のっ!!平助の所もだっ!!なんだその、白鬼姫と怪しい山南…だったか?!その設定に疑問はねぇのかっ?!雪村がついていながらそれは無いだろうっ?!」

当の千鶴は玉子焼きをかじりながら首を傾げている。

土方は大きくため息をもらした。

「そう言う土方さん達はどうなのさ。教師も毎年参加ですよね?」

問うたのは沖田。

非常に迷惑な話だが、熱血的な校長の趣向により、『学校行事は全員参加!!』であるからして、教師も例外では無い。

それには土方も興味があった。

何故なら近藤校長から頼まれた野暮用で職員会議に参加できなかったからだ。

左之も女子生徒の『重大な悩み』とかいうのに付き合わされて、進路指導室に籠っていた。

「それは、俺たちも知らねぇな。新八、決まったのか?」

左之の問いに、新八は豪快に笑った。

「聞いて驚くなよ?俺たちも劇をすることになった!!」

嫌な予感が走る。

「…で、内容は何だ?」


「新・選・組・だ!!」


はぁぁぁぁぁぁっとため息を付く土方。

左之も困惑の色を隠せない。

「そりゃ、いろいろと問題があるんじゃねぇのか…?」

頭を抱える土方の視界に、異様な物が映った。

キラキラと羨望の眼差しを向ける 千鶴 …。

「おい…何をお前は期待してるんだ。」

「みなさんの新選組のお姿、とっても楽しみです!!それには斎藤さんや沖田さんや平助君は参加されないのですか?!」

「おいおいおい。それは更にやばいだろう。」

呆れる左之の声は千鶴に届かない。

「おーい。千鶴ぅ。戻ってこーい。」

平助が千鶴の前で手を振るも、既に彼女の思考は何処かへと行ってしまった様子。

「…千鶴が希望するのであれば、俺は参加しても構わぬが。」

言ったのは斉藤。

無論、千鶴が喜んだのは言うまでもない。

「斉藤さん。私、嬉しいです!!」

ぎゅっと手を握られて、顔を赤らめる斎藤。

それを手套でちぎった平助。

「だーーーっ!!それはそうと、誰が新選組の劇をやるなんて言ったんだ?!」

「そりゃ、近藤さんに決まってんだろう。」

簡単に言う新八。

「・・・ねえ。前から思ってたんだけどさ。近藤さんって本当に記憶が無いのかな。」

沖田の問いに、全員が沈黙した。


暫らくの沈黙の後、土方が咳払いをして口をひらいた。

「とにかく、お前ら全部却下だ。平助のクラスは題材を変えろ。んで総司。台本を書きなおせ。」

「ええ?!なんでだよ!!何が問題あるんだよ!!」

口をとがらせて抗議する平助に、土方はため息交じりだ。

無論、沖田も「めんどくさいなぁ…」と顔をしかめた。

「お前らなぁ。問題がある事に気が付かないお前らが問題だろうっ!ついでに斎藤!!」

それには何故か必要以上に背筋を正す斎藤。

「何でしょうか、副長。」

「…副長って、あのなぁ。お前まで頭がおかしく…とにかく、おまえも女装でも何でもいいから、侍の格好はやめとけ。」

「…それは隊務ですか。」

既に訳がわからなくなってきた。

土方は頭を抱えて、言葉を無くした。

「土方さんって心配性だよね。白髪増えるよ。」


「総司…」と睨みつける土方に、沖田は肩をすぼませて、部室を後にする。

視界の端に、泣き出しそうにはにかむ彼女を映した。


  大事な想い出を 噛みしめるような笑顔




☆☆☆そして文化祭当日☆☆☆


多くの生徒と来客で賑わう校内。

殺風景な校舎も、今日ばかりは色とりどりに飾られ、見るものを楽しませた。



「で、そっちの方はどうなってるの?」

沖田の問いに答えるは平助。

「左之さんと新八っつぁんに渡して来た!!二人が今、土方さんを丸め込んでる。無理でもむしり取るっつってたぜ。」

それには頷いて返す。

「一君の方は?」

「…校長は、二つ返事で了承してくださった。」

「じゃ、急がないとね。一君が女装喫茶とか、面白い事してくれたおかげで、随分遅れちゃったからね。」

「あれは隊務だ……」

「一君、何処から突っ込めばいいのかな。」


そんな雑談をしながら。

いつもの三倍増しで、女子達の黄色い声を浴びながら、彼等が向かうは千鶴の元。

通り過ぎる女生徒達が、驚いた様に視線を向け、きゃぁっと顔を赤らめる。


千鶴の教室の前、沖田は呟く。

「千鶴ちゃんは?」

え〜っと。っと平助が教室を覗き込んだ。

「教室にいるハズだけど…おっ!!いたいた!!千鶴ぅっ!!」

教室の入り口に、彼らを捕えた千鶴の瞳が大きく見開かれる。



… うそ

   なんで ……


「み、皆さん…どうなさったのですか…」


自分の目を疑ってしまう。



あの時と変わらない姿。


浅黄色の羽織に、鉢巻を締める。


目の前には紛れもない、『新選組』



…… 懐かしい あの時の姿。


思わず目頭が熱くなり、思わず漏れそうになる声を両手で押さえた。


「さ、行こっか。千鶴姫♪」

沖田がおどけた様に言う。

「土方さん達の気が変わんねぇうちに行かないとな〜」

俺たちの劇も間に合わなくなっちまう、と言うのは平助。

「……皆、屋上で、ち、雪村を待っている。」

律儀に雪村と言い直す。皆の前で配慮を忘れないのが斎藤だ。



差し出される3つの手。

向けられる笑顔。



どうして屋上に行くの?とか

どうしてそんな恰好をしているの?とか


聞きたいことがあるのに、口を開けば零れてしまいそうな涙。


皆の注目を浴びながら、向かう先は屋上。


ギギギギィっと重たい鉄の扉が開かれて。

眩しい位の日差しに、千鶴は目を細めた。




「…ったく。お前らには敵わねえよ。」

仏頂面の土方。


「歳!!随分良く似合ってるじゃないかっ!!」

そんな土方を豪快に笑って肩を叩く近藤。

若干目を潤ませる彼に、本当に記憶は無いのか。



「やっぱ。いいよな〜。これ改造して普段着に…。」

「…借りモンだ。やめとけ。」

新八に左之のため息がもれる。



そして隣には、悪戯っぽく笑う沖田。


へへっと照れくさそうに平助も笑う。

斎藤が終始落ち着かないのは、照れ隠しだろうか。



雲一つない 青い空

 目の前に広がる浅黄色 ――――



「おい、ぼさっとしてねぇで、さっさと撮っちまうぞ。」

「え…?」



投げ渡された…

――― 浅黄色のだんだら模様



「何て顔してんだ…お前も立派な仲間だろう?」

左之のやさしい手が、ぽんっと千鶴の頭に乗った。




涙が、自然とこぼれた。




「ほら、ちゃと並べよっ!!…だぁっ!!脱いだら意味ねぇだろっ新八っつぁん!!」

平助がカメラを覗き込んで、吠える。




「千鶴ちゃん。早く。」


「…はいっ!!」




差し伸べられた、沖田の手を取って、千鶴は満面の笑顔で答えた。




――― 眩しい位の彼らの元へ

     
     追いかけた浅黄色に身をつつんで ――――


    





      ☆※おわり※☆



※おまけ※


「白雪姫と五人の侍?なんか突っ込みどころ満載だよね。」

手には薄桜祭と書かれたパンフレット。

千鶴達のクラスの劇のタイトルを見つけてクスクスと笑う。

「んだよ!総司のクラスだってパクリもいいとこじゃん!!」

沖田のクラス劇のお題目は 『桃太郎侍』


「まぁ。職員の劇に関しては、タイトルが痛すぎて見物だけどね」


職員主催 『3年B組!危ない刑事』


「あ、ほらちづるぅ!!劇、間に合わなくなっちまうぞ〜っ!!」





mura様☆お誕生日おめでとうございます!!


  素敵な一年でありますことを願って♪


     by:十夢走夜

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