薄桜鬼な世界

□〜プレゼント〜
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「わりぃ。狭い・・・な。」

「ご、ごめんなさい。」




負われて。

逃げて。


気づけば原田は千鶴の手を引いて

理科室に逃げ込んでいた。


二人して身をねじ込んだ古い引き戸の収納棚。

木の匂いと・・・薬品の匂いだろうか。

独特な匂いが鼻を突く。

座っていれば千鶴一人が入るには問題のない広さのスペース。

しかし長身の原田も一緒となると、少しばかり窮屈だ。

首を傾げたような状態で、不自然な恰好の原田。

千鶴は彼を気遣って、身を離そうとした。



−−−カチャン


ビーカーやフラスコの類いだろう。

足元で、硝子類を蹴飛ばしたような感触。

同時に千鶴の体がぴくんと跳ねた。


「おい、動くなよ。じっとしててくれ。」

原田に腕を引かれて、胸に頬を押し付けるような状態になってしまう。

頬が火照るのを感じて、千鶴は慌てて口を開いた。

「あ、ああのっ!」

「しっ!」

口を手で覆われたと思った瞬間。



――― ガラッ!!

勢い良く教室の入り口の戸が開けられる。


「ここかっ!?」


思わず身を硬直させた。

徐々に近づいてくる足音。

ぶるりと体が震えた。



男子生徒の上履きの先が、引き戸の隙間から見える。

あの上履きの色は・・・2年生だろうか。


徐々に近づいてくる上履きは、手前の鉄製のロッカーの前でとまり、勢いよく開けた。

「いてっ!!」

ロッカーを開けた拍子に、中のほうきとモップが倒れて、彼の頭を直撃した。

気の毒だが今は彼の不幸を笑う余裕も、同情する余裕も無い。

イライラとした様子で、彼はモップとほうきを床に叩きつけて

再び教室内を物色し始めた。

暫らくうろうろとしていた上履きが、目の前でとまった。

彼との距離、わずか数十センチ。

聞えてしまいそうなくらいに、心臓がどきどきと煩く高鳴る。


「・・・ったくっ。どこにかくれたんだ?!」

― ドカッ!!

苛立たしげに、彼が引き戸を蹴飛ばした。

「ひゃっ・・・」

思わず声が漏れた。

しまった。と顔を青ざめた時。



バタバタと廊下を駆ける足音。

「ちょっと!バレー部がまとめて体育館に隠れてるらしいよ!!一網打尽にするチャンスだって!」

「マジかよっ?!」

女子生徒に呼ばれて、男子生徒は足早に去って行った。






「・・・ふぅううう。さすがに、やばかったな。」



すっかりと気配を感じなくなったころ。

ゆるゆると息を吐き出して

原田は自分の胸に押し込めた千鶴に視線を落した。

「おっと。悪い悪い。大丈夫か?」

口を覆っていた手をどけてやると、ゆっくりと呼吸をし始める小さな肩。

背中越しにも伝わってくる彼女の鼓動。

ぎゅっとワイシャツを握りしめる彼女。



「これから私たちはどうすれば・・・」



見上げる彼女が至近距離で目を潤ませている。

この状況で、原田は不謹慎にも彼女のそんな姿が愛おしくてならなかった。

普段ならワイシャツがしわくちゃになるまでしがみ付くなんてことしちゃくれない。

普段なら、こんなにも至近距離で見つめてはくれない。


「・・・左之助さん。平助君は大丈夫でしょうか。」





真剣に仲間を思う心も

自分を頼ってくれる事も

うっかり学校で名前を呼んでしまっている事に気づかない事も。

全てが可愛くて仕方ない。







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