琉千彩
□第一話
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20××年 夏 PM11:00
小さな社の前。
横たわる身体。
体中を駆け巡る激痛を無視して
何事もなかったように 小娘はむくりと身体を起こした。
今回も失敗した・・・・
衣服に付いた土を払いながら、着物の裾を少しだけ持ち上げてみる。
そこにあるハズの小娘の足は輪郭がぼやけ、うっすらと地面が透けて見えた。
何度もタイムスリップすることは、
身体に相当な負担をかけるのだろう。
何度も時空を越えて旅をしてきた小娘の身体は・・・
・・・もう限界が近かった。
ぼやけた自分の輪郭を、恨めしそうに見つめた。
ソレは、彼女の存在自体を消し去ろうとしているようにさえ見えるから。
ふうっとため息を付く小娘の心情は計り知れない。
着物の袖から携帯を取り出し、ピッと 電源を入れる。
「11時、か・・起きてるよね・・・?」
アドレス帳を開き、慣れた手つきで通話ボタンを押す。
「・・・あ、もしもし。お兄ちゃん?ごめんね。遅くに。うん。そう。帰ってきた。・・・うん。わかってる。そう。・・・・すぐ行くつもり。 わかってるって。・・・はい。・・・じゃあね。」
通話を切り、パタンと携帯を閉じた。
ふ〜っと長めのため息をつく。
気だるい声色。
大分、体が痛むのだろう。
すぐそばに倒れている旅行用のトランクを、かったるそうに起こすと、それにもたれかかるように歩き出した。
中身はカラに近い。
・・・そう。過去でほとんど使ってしまったから。
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