琉千彩

□第五話
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―――寺田屋




あたりはすっかり暗くなり、不気味な静けさに包まれていた。



小娘は龍馬たちと共に二階の一室に身を潜めていた。

灯りは消され、緊張が張り詰める。


以蔵は廊下側の窓から、外の様子を窺い、慎太郎は部屋の入り口で身を小さくし、警戒をている。

そして、小娘は部屋の奥で、龍馬と武市の背に守られるように座っていた。



しんと静まる寺田屋。

普段なら、誰ともなく騒ぎだし、賑やかな夕餉が始まる頃。

重苦しい雰囲気を払うように、龍馬が口を開いた。

「参ったのぉ。・・・このまま退散してくれんじゃろうか・・・。」


めんどくさそうに頭をかきむしり、ヘラりと笑うのは、緊張を和らげようとしての配慮だろうか。


「土方君か沖田君か・・・どっちにしろ話し合いには、骨が折れるの」

誰にともなく龍馬は呟いた。

「安心しろ。・・・心配せずとも、彼らは話し合いには応じないだろう。」


それに答えたのは武市。

龍馬は眼だけで笑った。



暗い部屋の中・・・

龍馬と武市の横顔が、外から差し込む月明りで


薄らと青白く光る。
 



  『捕縛・のちに斬首』


嫌な言葉が、脳裏をよぎり

冷たいものが、背中を走った。

それを振り払うように、私は頭を振った。

龍馬さんが、そっと背中を撫でてくれる。


だけど。

新撰組よりも・・・

これからの未来に

残酷な未来達が押し寄せてくる恐怖に

私はは震えを止める事が出来なかった。


ゴクリと唾を飲み込んだとき。


以蔵の背中が、強張るのがわかった。


「・・・っ!」


うっすらと浅黄色した新撰組の羽織がよぎる。

窓脇の壁に張り付いて、外を確認する以蔵の横顔は、いつになく真剣だ。



「来たぞっ!!」



・・・・・・っ!!



一瞬にして空気が張り詰める。


「・・・表に・・・20人・・・裏手に・・・1・2・3・・・・5、6人ってところか・・・・」


慎ちゃんが、刀の柄に手を掛け身を低く安定させた。


―――ついに・・・きた。



耳を澄ますと、寺田屋の周りを、バサバサと袴をさばき、歩き回る不気味な足音。

緊張は一気に最高潮に達した。






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