琉千彩
□第八話
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〜 長州藩邸・夕方 〜
小娘は与えられた部屋で荷物の整理をしていた。
高杉から返してもらったトランクをひっくり返し、すぐに必要な物と必要ない物を分別していく。
ふと心地の良い風が頬を撫でる。
開けっぱなしの襖から入り込む風に小娘は顔を上げた。
部屋から見える中庭の景色。
その懐かしさに安堵のため息をついた。
長州藩邸は、南北に大きな建物が二つ、東西に向かって伸びている。その屋敷をつなぐ渡り廊下。
周りをぐるっと高い塀で囲まれていた。
小娘の部屋は、いつも決まっている。
南側の屋敷の日当たりの良い、中庭に面した部屋。
小娘はそこから見える中庭の景色が気に入っていた。
夕日が視界を茜色に染め、セミが名残惜しそうにジージーと鳴いている。
柔らかな風は、小娘の汗ばんだ肌を撫でて、ふわりと髪を揺らした。
絵に描いたような茜色の景色を、小娘は目を細め、ただぼぅっと見つめていた。
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