琉千彩

□第十五話
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―― 薩摩・二本松藩邸


  広間・朝餉


「おかわりっス!」

す、すごい食欲・・・

近江屋組のびっくりするくらいの食欲に、あっけに取られてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってね。」

慎ちゃんからお茶碗を受け取り、慌てて御櫃に手を掛けた。

これで3杯目だったよね。

龍馬さんも、以蔵も山盛りのご飯を既に2杯を食べきろうとしていた。

「僕にももらえるかな?」

「は、はい。」

ご飯をよそって、慎ちゃんにお茶碗を返すと、すぐに武市さんから差し出されるお茶碗。

武市さんも2杯目・・・


見ていて気持ちがいい位にペロッと平らげてしまう彼等。


「小娘さんも、あれくらい食べてくれると嬉しいんだけどね。」

隣で、桂さんがニッコリと視線を向けていた。

「は、はい。なるべく努力します。」

そう返事をすると、「すぐにとは言わないから。」と、目を細められた。

本当に綺麗に笑うようになったな、なんて思いながら、再び箸を取る。


心配かけないようにしなくちゃ。


意を決して、おかずを口に運んでいると、随分と大人しい高杉さんが気になってしまった。

「あ・・・高杉さん、どうしたんですか。」

殆ど口を付けず、お茶を飲み始めている高杉さん。

具合でも悪いのかと心配になって身を近づけた。

「・・・ちょっと、食欲がなくてな。」

「えっ!!どっか悪いんですか?!」

慌ててにじり寄ると、顔を背けられてしまった。


・・・高杉さん?


「こっち、見て下さい!」

不安に駆られ、思わず高杉さんの胸元を掴んでいた。

「わっ!!///お、俺はつまみ食いなんてしてないぞっ!」



・・・

・・・・つまみぐいって


「ご飯の前に何を食べたんですか・・・・食事の前に何かたべちゃダメって言ってるじゃないですかっ!!」

以前から、ご飯が待ちきれなくてつまみ食いする人だけどさ・・・

「晋作、よそ様の処で世話になっていると言うのに・・・つまみ食いなど・・・」


全くその通りだ。

桂さんの言葉に、うんうんと力強く頷いて見せる。

「え、遠慮はいらんと、あの大久保も言っていたぞ!!」


・・・そりゃ言ってましたけど。

まぁ、具合が悪くなければいいですけどね。


何だか、ホッとしたのか、呆れたのかよく分からないため息が出てしまった。


「そ、そんなに怒らなくてもいいだろう!?わ、わかったって。もうしない!!だから機嫌を直せ!!」

呆れてはいますが、怒ってはいません。

なんか、勘違いされたけど、直してくれるならそれでいっか。


この時、私はまだそんな風に、呑気に考えていた。



高杉さんは、つまみ食いなんてしていなくて。

心配かけない為の嘘だった。

でも、この時、私は気が付けなかったんだ。



「そうしてください。恥ずかしいですから。ね、桂さん。」

そう言って振り返ると、桂さんも神妙な感じで頷くから、なんだかおかしくなってしまった。


「まっこと、仲が良いのぉ。・・・わしも小娘さんに怒られてみたいぜよ。」

「もう、龍馬さん変な事ばっかり言って。」

ぷくっと頬を膨らませると、龍馬さんはにししっと笑った。


以蔵は呆れていて、慎ちゃんはご飯に夢中だった。


そして以蔵は慎ちゃんに『小魚を食え』と言って。

慎ちゃんはムキになって怒ってる。


武市さんは時々箸を止め、遠くを見つめていた。

武市さんの瞳には、モウ子さんしか映らないのだろうか。


廊下ではスタスタと近づいてくる足音。

きっと襖を開けた途端、

『朝っぱらから、君たちは相変わらず騒々しいな』

なんて嫌味を言いながら、大久保さんが登場するんだろう。


そんな、賑やかで心地よい朝のひと時。



幸せだなって。

思っていた。



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