琉千彩

□第十六話
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静かだった藩邸内が、急に騒がしくなって。

私の部屋は、大久保さんの隣へと移された。

それは藩邸内も危険だと言われているようで、とても悲しい。

西郷さんは同じ、薩摩藩の人だもんね。

大久保さんは今、どんな事を考えているのだろう。


未来へと帰れと言われて。

無理なら薩摩へ行けと言われて。

そして。

高杉さんと、桂さんからは手紙が届いた。

二人は長州征討に備えて、一時長州へと戻ると言う。

連れて行ける筈もなく、今は大久保さんを信じ、私の身を託すと書かれていた。

龍馬さん達も、とにかく忙しくて。

西郷さんと大久保さんの間を、行ったり来たりしているという。


私一人、一人だけが・・・

どうしたら良いのか分からず、ただ部屋にぺしゃりと座りこんでいた。

状況が、飲み込めない。

一番、よくわかっている筈の私が、

一番よくわからないでいた。


『薩摩へ行くのであれば、半次郎を付ける。小娘は、心配せずともたどり着けるから安心しろ。』

大久保さんが言った言葉を思い出す。


・・・なんなのよ。

簡単に言ってくれちゃってさ。

大久保さんは政治家でしょう?

そんなに剣とか強くない筈ですよね。

それなのに。

簡単に護衛の半次郎さんを私に付けるとか、言わないで欲しいのに。

それに、私が何でここに居るのか。

何の為に、ココに居ると思ってんのよ。





そして・・・

私の気持ちの整理が付くよりも早く、無常にも歴史は先へと進んでいく。



『第二次長州征討:14代将軍徳川家茂に命じられ、薩摩・西郷等の率いる一派が出兵』



どくどくと煩い胸を掴んで、ふらりと立ち上がった。



薩長同盟はどうなったんだろう。

今まで、嘘みたいに仲良くしていたじゃない。

喧嘩してたなんて嘘みたいに、昔から仲良かったみたいに。


なのにどうして?何で?

そんな事ばかり考える。



大久保さんが率いる群が、西郷さんが率いる群を抑えるために出兵するという。



   
歴史ガ 動キ出ス
       



『小娘。帰れるのであれば帰れ。これは遊びではない。』


わかってる。遊びじゃない事くらい、わかってる。

冷たく言い放った大久保さんの言葉が、何度も頭の中でリピートして。

どうしたらいいか、考えられなくて。





私は、頭を整理しきれないままに藩邸を飛び出していた。



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