琉千彩〜番外編〜
□以蔵×小娘A【約束&ギフト】
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「以蔵〜。」
井戸の前で顔を洗っている以蔵に駆け寄る。
女物の着物はもう来ていない。すぐさま脱ぎ捨てたのだろう。
「・・・おい!お前!これ、全然落ちないぞ!」
以蔵は、井戸の水で化粧を落とそうとしていた。
「以蔵、化粧はお水じゃ落ちないよ。」
無理矢理こすった以蔵の顔は、目の周りは真っ黒で、耳の近くまで口紅で真っ赤になっていた。
「擦ったら、肌が痛くなっちゃう。おいで、以蔵。」
目がしみるのか、しっかりと目を開けない以蔵の手を引いて、小娘は以蔵を縁側に座らせた。
袖の中から、化粧落とし用のコットンを取り出し、丁寧に以蔵の顔を拭き取る。
「・・・以蔵。ごめん。女装はやりすぎだったね。」
「・・・まったく馬鹿女だな。バカなくせにどうしてお前はくだらん事には頭が回るんだ。」
「・・・だから、ごめんってば。まさか、こんなに早く武市さんが帰ってくるとは思わなかったんだもん・・・。それに以蔵だって断らなかったじゃん。」
「なんでも言う事聞けって言ったのはお前だろ!!」
小娘は以蔵の目を閉じさせ、マスカラをそっと拭き取った。
「・・・武市さんには、後で私がちゃんと説明するから。武市さんだってちゃんと説明すればわかってくれるよ。」
「当たり前だ。先生は聡明な方だ。少し考えれば、こんなバカげたこと、お前しか考え付かないことくらい直ぐにお分かりになられる。」
「・・・もう、以蔵はすぐにバカ馬鹿って・・・以蔵だって武市先生バカじゃん。・・・武市先生マニア?」
「先生の後ろにバカをつけるな!それに『まにあ』とは何だ。武市先生にわけの分からん言葉を付けるな。」
「はいはい。・・・ほら、取れたよ。」
そういって、取り忘れているらしい頭のリボンを取り、ついでに濡れた髪の毛をハンカチで拭いてあげた。
「・・・以蔵どうしたの?」
以蔵は左目をぱちぱちと不自然に瞬きしていた。
「ん?あぁ何か目に入ったみたいだ・・・」
以蔵の目を擦ろうとする手を慌てて掴む。
「擦ったらだめだよ!見せて!」
小娘は以蔵の顔に手を添えて、ゆっくりと顔を近づけてきた。
「・・・こ、こんなもん、ほっとけば何とかなるっ////」
「だ、ダメだよ。目に傷が付いちゃったら、大変なんだからね!!」
小娘の顔は更に近づいて、以蔵の目を覗き込む。
「んー。暗くてよく見えないな・・・。」
後ずさりしようにも、後ろには柱が立っていて、前からは小娘が覆いかぶさるように覗き込んでいる。
「・・・くっ/////」
小娘はそっと以蔵の下まぶたを下げてみる。
「あ、あった。マスカラがちょっと入っちゃったんだね。」
そういった瞬間―――。
ちゅっっと音を立てて、口付けをするかのように以蔵の眼球を舐めた。
「・・・なっ//////////」
以蔵はぱくぱくと金魚の様に口を動かす。
「取れたよ。」
ぺっとマスカラの欠片をティッシュに吐き出す。
「・・・・お、お前!い、今何をしたっ!!」
「??何って、目に入ったゴミを取ったんだ
よ?見る?」
小娘はティッシュを持ち上げ、首を傾げる。
「・・・以蔵?顔が赤いよ?・・・もしかして痛くしちゃった?」
鈍感な小娘は以蔵の真意に気が付かない。
真っ赤な顔をして硬直する以蔵を、ただ首を傾げて不思議に思う小娘。