琉千彩〜番外編〜

□沖田×以蔵×小娘
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――― 京の街




小娘は先を歩く以蔵の背中を、見失わないように早足で歩いていた。


以蔵は大通りから離れた裏路地を、幾度も曲がりながら進んでいく。


・・・はぁ。ちょっと早すぎ。


小娘は早くも息を切らし始めていた。






薩摩藩邸を出て、長州藩邸へと向かう小娘に声を掛けてきた以蔵。

大通りを歩くのは危険だから、裏道を案内してくれるという。




送ってくれるのは嬉しいけど・・・

これじゃ、送ってもらうって言うより、追いかけるって感じに近い。




以蔵は、新撰組の見廻りを気にしているのか、随分と遠回りをし、幾つもの角を曲がって長州藩邸へと向かう。



ぼぅっとしてると、あっという間に見失ってしまいそうだ。



薩摩藩邸から長州藩邸までは大して距離は無いのだが、裏道を通っていくと結構な距離になる。



先を行く以蔵が、三つ先の角を左に曲がるのが見えた。


・・・いけないっ!見失っちゃう!


小娘は小走りに駆けだそうとすると、ふと見慣れた風景が視界の隅をよぎった。





あ・・・ここは・・・。





そこには、小さな家。

この時代、何処にでもあるような・・・

しかし小娘にとっては思い出深い場所だった。


小娘は思わず足を止めてしまった。





・・・えっと、長屋って言うんだっけ。




その時、家の木戸が空いて小さな男の子が駆け出してくるのが見えた。


藩邸内に迷い込んできた子猫を連れて、桂さんが訪ねた家。


パタパタと元気に走り去る男の子の背中を、小娘は目を細めて見つめていた。


その瞳の色は哀しいような懐かしむような・・・





「あ!いけないっ!!」





小娘は、はっと我に返り、小走りに以蔵の後を追った。




→続く
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