琉千彩〜番外編〜

□高杉×桂
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長州藩邸・渡り廊下

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小娘が長州藩邸に世話になり始めて1週間が経った頃。

藩邸内では異変が起き始めていた。


ドカッ!!と鈍い音。

一瞬の沈黙の後、高杉の叫び声が響き渡る。

「いっで〜!!」

ピカピカに磨き上げられた廊下。

慣れない感覚に見事に足を滑らせ、後ろに倒れてしまった高杉。

後頭部を強打し、頭を抱えてその場にうずくまっていた。

「し、晋作、大丈夫かい?」


慌てて駆け寄る桂の手を借りて、何とか立ち上がった。


「目の前に火花が散ったぞ。」


まだ頭が痛むのか、後頭部をさすりながら辺りを見回した。

藩邸内は、どこもかしこもピカピカに磨きあげられていた。

「なんだ、どうなっているんだ?!」


高杉の驚きも当然の事。

藩邸内は普段から掃除を欠かしたことがないが、抱えている下女の数はそう多くない。

そして少ない下女も藩士たちの炊事洗濯に追われて過ごす毎日。

ここまで掃除の行き届いた藩邸を見たのは、創立当初くらいのものだ。



「・・・どうやら、彼女の仕業らしいよ。」

桂の視線の先に目を移すと、中庭をせっせと掃除する小娘の姿があった。


「あいつは・・・何故、掃除なんてしているんだ?」


高杉の問いに、桂は眉を寄せて腕を組んだ。


「最近ね、小娘さんが掃除をして困っていると下働きの者から報告があってね。客人にそんな事をさせられないと言っても、聞かないらしいんだ。」

中庭を掃除する小娘が、こちらに気が付き、にっこりと手を振っている。


「よく働くし、器量もいい。小娘さんは誰とでも分け隔てなく接するからね。男女わず、下働きや兵士たちからも好かれているみたいだよ。」


気に入らないといった風に、高杉は眉間にシワを寄せた。


「怪我も完全に治っていないと言うのに・・・」

桂は小娘にニッコリと笑い返し、小さく呟いた。


「小五郎、あいつ・・・部屋の奥に閉じ込めておくか。」

高杉の発言は冗談半分、本気半分と言ったところ。

彼女の笑顔は、満開の花のごとく人を引き付ける魅力があった。

その笑顔を独り占めしたいと思うのは、この人ばかりではない。


「・・・晋作。」

目を見開いて振り返る桂に、滅多な事を言うなと咎められるだろうなと、高杉は身構えていた。

しかし、桂の口から告げられた言葉は意外な物だった。


「それはいい考えだね。うん、屋敷の奥に大事にしまっておこうか。ついでに、鍵をつけるといいかもしれない。」


 

 座 敷 牢 ?


高杉の脳裏にその三文字が浮かんだ。



「!!!(こ、こいつ本気で言っているのか?!)」



その本気とも冗談とも取れる彼の笑顔に、ひやりと背筋が凍るのを感じた高杉であった。





→☆あとがき☆
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