琉千彩〜番外編〜
□かっぷら〜めん
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カップラーメン
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〜 長州藩邸・広間 〜
二人と仲直りしてすぐのこと。
カレーライスパーティが待ちきれない高杉さんのために、私はカップラーメンを作ってあげることにした。
もちろん、桂さんにも。
作ると言っても、お湯を入れるだけなんだけどね。
二人の前に差し出したカップラーメン。
何の変哲もない、ごく一般的なカップラーメンなのだけれど・・・
「これがかっぷらあめんってやつか!!」
警戒しているのか、ほんの少し引き気味の高杉さん。
「大丈夫ですよ、爆発したりしませんから。」
その言葉に安心したのか、二人はまだ封を切っていないカップラーメンを、躊躇しながらも手に取った。
ひっくり返してみたり匂いを嗅いだりしているのは高杉さん。
桂さんは、カップの文字を眉を寄せてじっと見ていた。
桂さん、真剣に読んでいますが、逆さまに持ってますから読めないと思いますよ。
と、心の中で突っ込んでみる。
こうも新鮮な反応を取られると、いたずらしてみたくなるもので。
「どっかーんっ!!」
「うわぁっ!!」
突然の小娘の大声に、高杉は派手に飛び上がってカップラーメンを投げ捨てた。
桂もまた肩を大きく揺らし、目を瞬かせている。
「あ、冗談です。魔が差しました。」
「なっ!おどかすなっ!!」
「・・・小娘さん。(ニコッ)」
桂の視線が小娘を射抜いた。
満面の笑みの桂さん。
こ、怖すぎる。
・・・時々、桂さんの笑顔に殺されそうになる。
いろんな意味で。
「す、すいませんっ!度が過ぎましたね。と、とにかく食べましょうか。あはは。」
とりあえず、話をそらそう。
怒った桂さんは怖すぎます。
「まったく。小娘らしくないな。」
高杉はブツブツと呟きながら、投げ捨てたカップラーメンを拾い上げた。
いいじゃないですか。
番外編なんだし。
本編ではなるべく真面目にやりますから。
高杉さんが派手に投げたカップラーメンは、何とか無事だったらしい。
「このまま食うのか?」
高杉さんが、大きな口を開けて未開封のカップラーメンをそのまま食べようとしている。
「いやいや。食べられませんから。お湯をいれてください。」
私は高杉さんからカップラーメンを取り上げて、ぺりぺりとフィルムを剥がす。
「これは、お湯を入れて調理するんです。保存食でもあるんですよ。乾燥させた麺と粉末にした汁が入っているんです。そういう状態にしておけば日持ちもするし、お湯を入れて3分待つだけで食べられるようになるんです。」
・・・ほう。
小娘の説明に感心する二人。
「なるほど。それは便利だね。それで・・・かっぷらあめんとは、麺なのだね。うどんやそばのような物だろうか。」
さすが桂さん。
私のつたない説明でも理解してくれてありがたいです。
「そうです。ラーメンは元々、中国・・・ええっと、清国?唐?のそばみたいなものです。とにかく食べてみてください。」
二人のカップラーメンの蓋を開けて、用意してもらった熱湯を注ぐ。
「3分待てば食べられますよ。」
高杉の眉間にしわが寄った。
「さっきから、さんぷんと言っているが、それははどれくらいだ?何刻だ?」
そうか。
この時代の人に何分と言っても分からないよね。
「ええっと・・・・1分が60秒だから、180秒、180数えたら食べられます。・・・ってもう1分くらい過ぎてるから、とにかくあともうちょっとです」
「そんなにすぐに出来上がるのかい?」
驚きを隠せないのは高杉も桂も同じ。
「ええ。もうそろそろ、いいんじゃないでしょうか。」
早速蓋を開け、ぐるぐると箸でかき混ぜてみる。
うん。もう食べられそうだ。
「できました。熱いので、気を付けてくださいね。お口に合うといいんですけど・・・」
差し出されたカップめんを手に取り、ためらいがちに口に運ぶ二人。
「・・・これは。」
目を見開いている二人に、小娘は少し不安になった。
「おいしくない・・・ですか?」
この時代の人には、おいしく感じないのかな。
心配そうに二人の顔を窺っていると、意外な反応が返ってきた。
「うまい!!こんなにうまいもん初めて食ったぞ!」
「・・・お湯をいれただけで、この味が出るとは・・・どのように作っているんだろうか。」
「よかった〜。口に合わないのかと思いました。」
ほっと胸をなで下ろす小娘。
意外に好評なカップラーメン。
持ってきて良かった。
目の前の光景に感じる違和感。
すごい光景だ・・・
目の前で歴史上有名なあの高杉晋作と、桂小五郎がカップラーメンをすするというなんともミスマッチな光景。
この暑さの中、汗を拭いながらもあつあつのカップラーメンをすする。
・・・なんか、CMになりそう。
あ、カレーパーティの時は、龍馬さん達もカレーを食べるんだよね。
そんなすごい光景を目にすることができるんだ。
彼らには食べてもらった後にあのセリフをいってもらおう。
『カレーはやっぱりボ○カレー!』
我ながらなんともくだらない発想が脳裏に浮かぶ。
小娘はそんな事を考えながら、ニコニコと二人の食べる姿を嬉しそうに見つめていた。
海老が入っているだの、この肉は何肉なんだ、なんて事を二人してブツブツと言っていたけれど。
あっという間に二人はたいらげてしまった。
汁まで全部飲み干してしまった高杉さんは、カップの端を箸でつついている。
「うまいが、量が少ないぞ。もっと食いたい。」
「すいません。荷物の都合上、ミニサイズなんです。」
「みにさいず・・・?」
聞き慣れない単語に、首を傾げる桂さん。
高杉さんも同じように疑問符のついた顔をしている。
説明するのはめんどくさいから、とりあえずスルーすることにする。
「ラーメンはまたの機会って事で、未来のお菓子もあるんですけど、食べてみます?」
さっと取り出したのはコンソメ味のポテトチップにポッキー。
この夏の暑さにチョコレートは溶けかかっていたけれど、まぁ食べても腹を壊すことはないだろう。
「おう!食いたい!!」
目を輝かせて飛びついてくる高杉。
くすり。
高杉さんって、子どもみたいだよね。
高杉の姿に、一瞬、弟の事を思い出して、顔を歪ませる小娘。
元気に、してるかな。
すぐさま気を取り直して、お菓子の袋を開ける。
「今、分けますから、ちょっと待っててくださいね。」
私の目の前には、桂さんに高杉さん。
二人の笑顔。
そして、龍馬さん達との楽しい約束。
彼らが元気でいてくれる。
彼らが笑ってくれる。
大好きな人達に『初めて』を体験してもらえる喜び。
自分の生まれた時代のものを食べてもらえる事。
未来の事を話して聞いてもらえる事。
それだけで、私は十分幸せだから・・・。
こんな幸せがずっと続けばいい。
決して、多くは望まないから。
彼らのこの笑顔だけは守って。
お願いだから。
→おまけ