琉千彩〜番外編〜

□ギフト【大久保】
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すっかり宴会も終わり、小娘はバタバタと後片付けに奮闘していた。

「すっごいお酒の瓶・・・。」

持ちきれないほどの空っぽの酒瓶を持って、炊事場へと向かう。

飲む量も、食べる量もハンパない彼らの胃袋に驚きを隠せない。

龍馬さん達って、そんなに大柄ってわけじゃないのに、ほんといっぱい食べるし、飲む量もすごいんだよね。

慎ちゃんなんて小柄なのにすごい量を食べるし。

この時代の人って、皆そんなに大酒飲みなのだろうか。


とりあえず、運ぶだけ運んで、後は明日にしよう。


空になった酒瓶が、あっという間に炊事場を埋め尽くす。

明日は大変だなと思いながら、小娘は何とか広間を片付けて、ふうっとため息をついた。


すっかり静かになった藩邸内。

先ほどまでの賑やかさが嘘のよう。

サワサワと吹く風が、木々を揺らして音を立てている。


「いけないっ。早くしないと日付が変わっちゃうかも!」

小娘は慌てて広間を飛び出した。

この時代の時間は未だによくわからない。

時計があるわけじゃないし、特に夜になると鐘も鳴らないから、いったい今が何時くらいなのか見当もつかない。

高杉さん達はどうやって時間を調べてるんだろうな。

日付が変わっていない事を願いながらも、私は渡り廊下を北側の屋敷へと向かう。

パタパタと廊下を走って向かうは、もちろん、大久保さんの所。



「遅くなっちゃった。まだ、起きてるかな。」


北側の屋敷に出ると、縁側に座りこむ大久保の姿を見つけた。


「大久保さん。良かった。起きてたんですね。」

少し、声のトーンを下げて声を掛けると、大久保は見上げるように振り返った。

「なんだ、小娘か。・・・隣の連中がうるさくてな。」

ふうっとため息をつく横顔は、少し疲れた色をしてる。


廊下にいても聞こえてくるぐおーぐおぉーという騒音。

あのいびきの主は、一体誰なのだろうか。



「先生ッ!俺も・・・」

「もう食えないッス!」


突然聞こえて来る彼らの声に、ぴくりと肩を揺らす。


「・・・寝言?」


振り返り、彼らの部屋を見つめていると、再び地響きのようないびきが聞こえてきた。



・・・以蔵、夢の中でも武市さんと一緒で良かったね。

まだ、食べるの?・・・慎ちゃん。


夢の中で、たくさんのお肉を口いっぱいに頬張る慎ちゃんが想像できて、くすりと笑ってしまう。



「・・・小娘さん、こがなトコじゃいかん///・・・ワシの部屋へ・・・」

「・・・そう、モウ子さんもそう思うのだね・・・私も・・・饅頭・・・」


いやいや、龍馬さん?!どんな夢みてるんですかっ!あまり夢の中の私にいかがわしい事しないでくださいね。

・・・武市さんは、もう何でもいいです。ノーコメントで。


「・・・ゆっくり寝てなどいられん。」

チラリと送られる大久保の視線に、小娘は苦笑した。

「部屋、変えてもらいましょうか?」

ふうっと、ため息をついて大久保は首を横に振り、

「いや、構わん。時期に夜も明ける。ゆっくりもしてられんからな。」

そういって口の端を上げてみせた。


・・・大久保さん、雰囲気変わったな。

なんか、吹っ切れたって感じ。


小娘は大久保の隣に座り、頭を下げた。



「今日は、ありがとうございました。」

そう、大久保さんには早くお礼が言いたかった。

まさか、今日あんな約束をしてくれるとは思ってなかったから。



「ん?・・・あぁ、同盟のことか。小娘からあんな文をもらってはなぁ。私も黙っておれんからな。」

「・・・文?・・・あぁ、また高杉さんたちを逆なでするような物持って来られたら困るんで。今回は、私の我がままで皆さんを呼んでもらったから。」

小娘はほうっとため息をついて空を見上げた。

そこには満天の星。

「まさか、同盟の約束をしてくれるとは、思ってなかったです。」

嬉しそうに笑う小娘に、ぽかんと口を開ける大久保。

「何を今更、とぼけ・・・」

思わず口をつぐんだ。


あれは、小娘の遠回しな催促だったのではないのか?

ここまで段取りさせておいて、まだうじうじしているのかと言いたいのかと思っていたが・・・

私の考えすぎだったと?

きょとんとした大きな目を瞬かせて、首を傾げている彼女に、大久保はくくくっと笑いを漏らした。



「・・・この間抜けな顔の腹の内など、探る必要など無かったな。」



小娘の発する言葉に、裏も表も無い事をすっかり忘れていた。

どうやら私は、この娘にまんまと振り輪回されたという訳か。



一人、おかしそうに笑う大久保に、

「どうして、笑う・・・ああっ!!わ、私、生意気な事、書きましたよね。ご、ごめんなさいっ」

自分で書いた文面を思い出し、慌てて頭を下げた。


もちろん、大久保の思う所はそんな所ではないのだけれど。


チラリと大久保さんを窺うと、とても優しい顔をしていた。

「・・・小娘は相変わらずだな。」

呆れるように言って、口の端をあげた。

「心配するな。小娘が生意気なのは、今に始まった事ではない。それに・・・同盟は、小娘の為だけではないからな。」



言っている意味はよく分からないけれど。

急に真面目な顔で、空を見上げる大久保さんは・・・

きっと、満天の星空なんかをみているのではなくて・・・もっと先の、この世界の行く末を見ているのだろうと思う。




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