小娘ちゃんと七人の侍

□第二話
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さてさて。

ここは長州藩邸。

そして大きな背中を丸めて、ごそごそと小娘のカバンを物色中なのはこの男。高杉晋作。


「ねぇ。何で人の荷物、堂々と漁ってんの?」

ちょこんと首をかしげ、腕を組む彼女は、可愛らしい小さな足を持ち上げると、そのままその男の背中を蹴り飛ばした。

・・・念のため、もう一度言うが、彼女が蹴り倒したのは、高杉晋作。

奇兵隊・隊長、高杉晋作その人である。


派手に突っ伏した高杉を庇うことなく、桂は彼女の艶やかな髪を撫でた。

それを恨めしそうな目つきで見上げると、薄く細められた視線が落とされる。

桂は切れ長の澄んだ瞳をしていた。

彼の持つソレは、宝石のように美しく、それでいて冷ややかだ。

しかし。

彼女に向けるその眼差しは、このころから既に温かいモノだったかもしれない。


「女子がむやみに足を上げてはいけないよ。」

優しい口調の桂に、「だって。」と口をとがらせる彼女。

彼女の不満もわからなくもない。

勝手に人の荷物を漁られたら、蹴り倒すまではいかなくとも、文句の一つも言いたくなるものだ。

畳に額をぶつけ、赤くなっているのも気にせずに、ガバッと振り返る高杉に、冷たい視線が注がれた。


それに臆することなく、高杉は真剣な顔つきのまま。

「おまえ・・・」

ぎろりと睨まれて、一歩後退りする。

「な、何よ。文句ある?」

きつく掴まれた肩が痛い。

確かに、いきなり足蹴にしたのは悪かったが、謝罪をするつもりは毛頭ない。

しかし、彼の次の言葉は、突拍子もない言葉だった。

「おまえ、未来から来たんだろう?!」

高杉の真面目な顔つきに、そして唐突な言葉に、思わず呆けていると、桂は眉間にシワを寄せて、彼の手を払いのけた。

ついでに近すぎる二人の距離を引き離す。

特に意味は無い。多分。

ただ単に女子をそのように扱ってはいけない。

という彼の紳士的な配慮に過ぎない。今のところは。


「突然何を言い出すかと思ったら・・・あまりにも彼女に失礼だよ。」

いい加減にしなさいと諌めながら、大きく溜め息をついた。

「だいたい・・・」

それは恐怖のお説教の始まりを告げていた。

桂のお説教はとてつもなく長い事は、身をもって体験している。


「・・・ちょっと待って。」


それを知っていて、遮るつもりで言ったわけではない。

結果的に、桂のお説教を止める事にはなったが。


「高杉さんの言う通りかもしんない。」

ここ数日の見聞で、やはりたどり着く答えはソレだった。

いくら考えても、あり得ないと否定しても、やっぱり導き出される答えはそれしかないのだ。


「やはりな!最初からそうじゃないかと思ってたんだ!」

満足気に笑い、うんうんと頷くのは高杉。

正反対に、桂は頭を抱えて再び大きな溜め息を漏らした。

「非現実的な事を・・・」

桂の反応が正しい。普段ならそっちに加勢したいところだが、今回ばかりはそうもいかない。

「ん〜。私もそう思うんだけどさ。私、現実主義者だしね。」

過去とは断定出来ないし、とても良く似ているだけの、別次元かもしれない。

ただ、はっきり言えるのは、彼女がいた世界は、ここよりもずっと文明が発達していると言う事。そして、良く似た過去を歴史として学んだと言う事の二点。


ざっくり簡潔に彼らに説明すると、途方もない話に二人はあっけにとられてしまった。

「信じがたい話だね。」

眉間にシワを寄せる桂。

彼女が嘘を言っているとは思えないが、かと言って、はいそうですかと納得できる話ではない。

勿論、彼女の方も、直ぐに納得してもらおうなんて思っちゃいない。

というか、彼女にとって、彼等が信じようが信じまいが関係ないのだ。

自分の置かれている状況を把握したいだけなのだから。

「だけどね、そうとしか説明出来ないのよね。だいたい、ここって江戸時代?てか何年?西暦って言ってわかる?」


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