小娘ちゃんと七人の侍

□第四話
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昔々の京の町。

月明かりに照らされて

裏路地に二つの影が動く。



動き出したと思えばぴたりと止まる。

再び進んだと思えば、後退する。


息を切らして動くソレ。


一つは勿論、我らの可愛い小娘ちゃん。

もう一つの影は、今回の主人公・中岡慎太郎ッス。


何を二人してもぞもぞしてるんだと言いたくなりますが、これも仕方ないんですよね〜。

今まで順調に進んでいた二人。

彼等にとっては非常に迷惑な話ですが、ここにきて土方さんが捜索の隊士を増やしたようです。

ピイイイっと甲高い笛の音が闇夜に響いたと思ったら

ぞろぞろと浅黄色の隊服が暗闇から湧き出して来ました。


目的の場所まであと半分ってところで

どうにも見張りの隊士が邪魔で迂回に迂回。


次第に彼女の動きにも疲労が見え隠れしています。

額に汗をにじませる彼女は足取りもおぼつかない様子ですね。



「姉さん、大丈夫ですか?」



辺りを警戒しながら慎太郎は、小娘に声を掛けた。




そうそう。簡単に今までの流れを説明しておきますね。


彼らは新撰組に襲われ、寺田屋から散り散りに逃げだしました。


深手を負った龍馬。

そんな彼を安全な場所へと隠して

慎太郎は、長州藩邸に助けを求めに行った訳ですね〜。

そんでもって『応急処置』が出来ると言う彼女を連れて龍馬の下へと戻ることとなりました。


そんなこんなで現在、新撰組を警戒しつつ、二人は龍馬の下へ向かってるっつー訳です。


・・・ですが、慎太郎さん。

ぶっちゃけかなーり、焦っちゃってます。


「あともう少しですよ。」


口調は平静を保ってますけど。

彼女を休ませてやりたい。そう思う反面、龍馬の下へと一刻も早く戻りたい。

そんな真逆な思考に、苛立ちが募っちゃってるみたいです。


振り返れば、疲労の色を隠せない小娘の姿。

肩で苦しそうに息をしてます。

額の汗を拭って眉根を寄せる。唾をのみ込むのもやっと・・・って感じです。


そんな彼女の姿に、慎太郎は眉を下げた。

で、そういう事ばっかり察しがいいのが小娘ちゃんです。


「ごめっ・・・慎ちゃんっ・・・」

上がる息で、何とか謝罪の言葉を発した。


彼女、運動神経は悪い方じゃありません。

足の速さは陸上部からも声がかかるほどですから。


それに加えて、日頃からの剣道部での基礎体力づくり。

持久力も結構なもんです。


しかし、慣れない草履に着物姿ですからね。

おまけに街灯すらない街に、舗装のされてない道。

新撰組から隠れるように移動する彼らですから、灯りなど持ち歩く訳もないんですわ。


唯一の救いは満月。


夜目の聞かない彼女にとって、それだけが頼りです。



一方、一刻も早く龍馬の下へと急かし、何とかここまで彼女を連れてきた慎太郎であります。

しかし、これ以上彼女に負担を強いる事は慎太郎には出来ないでしょうね。

新撰組の数は増える一方。



・・・もはや此処までか。




このまま彼女を連れて歩くには時間がかかり過ぎる。

一刻も早く龍馬の下へと向かいたい。

かと言ってこのような場所に彼女を置き去りにすることは出来ない。

だったら、近くて比較的安全な場所で待っていて貰う事。


この短時間では、その答えしか見つけられなかった。



慎太郎は諦めのため息をついて、


「姉さん、この近くに世話になってる宿があるんですよ。そこでまっていて・・く・・・れ」



『そこで待っていてくれませんか。』と繋げようとして

しかし、それは彼女の予想外の行動に遮られてしまった。





何をしているのか理解できなかった。

こんな街中で。

このシチュエーションで。



何故か小娘は固く結ばれた帯締めを

一生懸命に解こうとしていた。





「な、何をしてるんスかっ?!こんなときにっ」


思わず上ずりそうになった声を慌てて落ち着かせて問うた。

しかし答えは返ってこない。

彼女の行為の意味がサッパリ理解できない。



「いいからっ!!手伝って!!早くっ!!」


帯締めがうまくほどけずイライラしながら、急かすように言った。

着なれない着物。慌てていることもあってか、全く解けそうもないのだ。


彼女の迫力に押され・・・

慎太郎は、躊躇いつつも言われるがままに帯締めを解いてやった。


すると、徐に帯を解き、着物を脱ぎすてた。


「ちょっ?!姉さん?!」

目を白黒とさせている慎太郎を他所に、彼女は襦袢に手を掛けた。

少し躊躇って、それでもソレを脱ぎ捨てた。



同時、慎太郎は赤面し、硬直したのは言うまでもない。



露出した、白くしなやかな手足。

月明かりを浴びて、無駄に艶めかしく。

青白く彼女を主張するように光った。


慎太郎は上から下まで凝視して、そこでやっと我に返ったのだろう、思いっきり背を向けた。


無論、彼女は素っ裸・・・ではありません。


着物の下に、ちゃーんとキャミソールとショートパンツを履いています。

しかし、慎太郎にとって刺激が強すぎるのは言うまでもないッス。


「走りづらいのよ」


更に彼女は草履を脱ぎ捨てた。

腰ひもだけを手に取り、慎太郎の手を取る。


「行こうっ!!」

「・・・ちょっ?!」

小娘に手を取られ、引きずられるように再び走り出す。

「ぞ、草履は?!怪我するッスよっ?!」

「足袋で十分よっ。草履なんて履いてた方が靴擦れおこすんだから。・・・それよりどっち?!」

その言葉に、慎太郎は慌てて平静を取り戻す。


何度か頭を横に振って、再び彼女の前を走り出した。


彼女の姿を見ないように。

そして、一刻も早く龍馬の元へ向かうために。



・・・・速いっ!


先ほどとは打って変わって、彼女の速度が上がった。

慎太郎の引く手に、ほんの少しの負荷もかからない。

それどころか、追い越されてしまいそうなほどの速さ。




・・・姉さんは、ホントに凄いっス。



どんなに急かしても、一言も文句を言わずについて来てくれる小さな体。

そして、足手まといになると理解った途端、仲間のために余分な物は潔く切り捨てる。



羞恥も、着物すらも・・・。



そんな事を考えながら、思わず頬を緩める慎太郎です。

もちろん、慎太郎が思う程、彼女は恥じらってなんておりません。


でもまぁ。

そんな事は、慎太郎が知る余地もない訳でして・・・



そんな感じで、龍馬の下へ。

二人の姿は京の街へと消えていくのでした。





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