舞華
□第十一抄
1ページ/3ページ
「いりすさーーーんっ!!!」
かごめは自分に四魂のかけらを託したいりすに手を伸ばし掴もうとしたが、彼女の肉体は崩れ散り骨と化していったために、掴むことができなかった。
そのまま白霊山の奥底の闇へと吸い込まれるように落ちていくいりすをじっと見つめた。
しかし、ゆっくりといりすの消滅を悼んでいられなかった。
いりすが奈落の隙をつくために犬夜叉に放たせた“風の傷”が、奈落の妖気の流れに絡め捕られてしまい、この空間の中で暴れまわり始めたのだった。
かごめたちは暴れる“風の傷”に翻弄される。
「かごめ、大丈夫か!?」
「う、うん…。風を…、なんとかしなくちゃ」
自分の周りに結界を張っている奈落は、平然とかごめたちを見下ろし、そのまますーっと上空へと上がり始めた。
「奈落、てめえ…、逃げるのか!」
犬夜叉がそれに気づいて吠える。
「追って、犬夜叉」
かごめは力強く言った。
今、犬夜叉の“風の傷”が暴れまわっているのは、奈落の妖気に捕まったからだ。
「奈落の妖気なら、私に消せるかも…、それに…」
奈落の結界の中、その足元に四魂のかけらが二つあることをかごめは察知した。
「鋼牙くんは本当の妖怪だから、奈落の奴、身体に取り込むつもりかも…」
助けなければと思ったかごめは犬夜叉にそう言うと、火鼠の衣を被せてもらい、犬夜叉の背に乗って一緒に奈落の後を追いかけた。
そして、距離を縮めると奈落に向けて矢を放った。
かごめの思った通り、破魔の矢で“風の傷”は止んだ。
そのまま、その矢が奈落の結界の一部に命中すると、膜に包まれて丸くなっている鋼牙がどろりと中から出てきた。
「くくく…、こんな時まで仲間の心配か…」
動じることなく奈落はかごめたちの方に振り向くと、静かに手を挙げた。
それと同時に、山が崩れ始めた。
「せめてもの情けだ。仲間と同じ墓場で眠れ」
そう言い置いて、早々に山を抜け出て行った。
かごめたちは崩れゆく山の中で難儀していた。
奈落の結界から助け出した鋼牙がその膜に包まれたまま、崩れゆく肉壁とともに落ちて行っていたからだ。
「あ…、鋼牙くん」
瘴気も満ち始めている中、犬夜叉は七宝にかごめを先に連れて出るように託すと鋼牙を助けに向かって行く。
「犬夜叉、気を付けて……」
かごめは犬夜叉の身を案じながらも鋼牙のことも助けて欲しいという気持ちがあったので、山から先に抜け出すと、犬夜叉のことを信じて待つことにした。
犬夜叉のことを信じている。
それはいりすにも言ったことのある自分の一番の気持ち。
白霊山の中から抜け出したかごめ、弥勒、珊瑚、七宝は山から少し離れたところで犬夜叉たちが出てくるのを見守っていた。
(犬夜叉…)
かごめは崩れゆく山の姿を見ながら、強く心の中で願っていた。
(っ!!)
そうして、犬夜叉が生きて戻ってくるのを願って力強く手を握った時、その手の中にある物のことを思い出し、掌を開いてそれを見つめた。
(いりすさんが身に着けていた四魂のかけら…)
その一瞬、そのかけらが光った。
かごめにはそんな風に見えた。
それと同時に七宝が声を上げた。
「かごめ!犬夜叉と…鋼牙も一緒じゃ」
「っ!!」
なだれ落ちてくる岩の合間を縫って二人とも無事に山から抜け出してきた。
「よかった、無事で…」
かごめが犬夜叉と鋼牙の元へと駆け寄って行く。