合法ドラッグ
□drug5
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私たちはまた<もう一つのバイト>の為、この場所に来ている。
だけど、私はあまり気が乗らないでいる。
ここは私が通っていた高校に近い場所だ。
そして只今、夏祭りの真っ最中なのである。
「私、やっぱり帰る」
「え?俺がはしゃいでたのが鬱陶しかった?」
「そういうわけじゃ…ないけど…、」
確かに、風疾ははしゃいでいた。
祭りが大好きだと色々な屋台を見つけては一人だけではしゃいでいた。
「私、人混みが苦手だから…」
「俺らが傍にいる。だめか?」
「っ!?」
そこへ、珍しく陸王が話に入ってきた。
この場所は通っていた高校に近いのだ。
私は、少し前まで普通に高校に通っていたのだが、あることを理由にその高校を中退した。
それ以来、この場から離れ近づかずに、中学の頃に両親に先立たれた私はアパートで一人暮らししてきた。
『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』
また込み上がってくる不安。
忘れられない過去。
「やぁ、楽しんでるね」
そこへ、花蛍が斎峨を引き連れて、私たちの元へとやって来た。
「わぁ!花蛍さん、似合ってますね!!」
相変わらず賑やかなままの風疾が花蛍の元へと駆け寄って行った。
「でも、斎峨さんは…、なんで、浴衣にサングラスなんですか?」
斎峨を見て、風疾は怪訝な表情を見せる。
「定番だよ、定番!!これがないと俺じゃないみてぇだろ」
斎峨はそう笑いながら、風疾の背中を強めに叩いていた。
私は自然と笑いが込み上がる。
「それにしても、よくこんな奴とか斎峨さんのぴったりの寸法の浴衣がありましたね。既成で…」
斎峨に更に余計なことを言って首を締められていた風疾が、花蛍に改めて訊いた。
私は、笑いが止まらずに風疾に言った。
「くすくす。常識で考えてこんな無駄にでっかい二人の浴衣が出来合いであるわけないじゃない?」
「え?じゃぁこれ作ったんですか?」
私の言葉にはっとなった風疾は驚いた声を上げた。
「5枚ともね」
さらりと花蛍は返した。
「すっごい!花蛍さん!!」
本気で花蛍が作ったと思い込んでいる風疾は、感動の眼差しを向けていた。
だが、間髪入れずに花蛍は否定した。
「斎峨が縫ったんだよ。全部」
「ええええええええ!」
風疾は心底驚いていた。
そして、斎峨は一体何者なのかとまた 怪訝に見つめる。
「くすくす。斎峨、この浴衣作ってくれてありがとうね」
私は笑顔を見せてから、花蛍と斎峨の両方を見つめた。
「でも、やっぱり帰ることにする…」
「え?」
「・・・・・」
二人にそう言う私に、風疾が声を漏らして、陸王は黙ったまま視線を向ける。
「心から楽しめなくて…、無意識に神経尖っちゃうから…」
「そう…、じゃぁ、僕が送って行くよ」
「ありがとう」
花蛍が私の意を汲んでくれた。
そうして、斎峨と共に<みどり薬局>へと帰って行く。
それもさっさと帰って行く二人。
こんなにさっさと帰ろうとするってことは、今回の仕事もまた面倒なものだったんだねと思わざるを得なかった。
***
「やっぱり、あの二人が居ても無理だった?」
花蛍が改めて私に尋いた。
「二人を頼ってないわけじゃないんだよ…、ただ…、まだ…」
<トラウマ>の濃い場処には居てられない。
もしも、を考えるととても怖いから。
また、暗闇に堕ちて行ってしまいそうだから。
「でも、彼らは大丈夫だよ。もう少し、信用して、信頼してみたら?」
「・・・うん」
少し間を空けて私は頷いた。
分かっている。
風疾も陸王もとても優しい。
私は昨夜の出来事を思い出した。
視たくて視えたのではないが、私は、彼らとの初対面で彼らの大切な人たちの面影を垣間視てしまったのだ。
そのことをずっと黙っていたことが、遂に露見した。
風疾は感情を昂らせて驚いていた。
一方、陸王は冷静なままでずっと自分に対して優しくしてくれていたが、真意は何を思っていたのだろうか。
「難しいだろうね…今の君には。一番信頼していた人から罵声を浴びせられたから…」
『いやあああ!化け物っ!化け物っ!』
私は過去を思い出し、また耳を塞ぎ、思いきり目を閉じて顔を伏せた。