舞華
□第九抄
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「か弱い小妖怪…、犬夜叉ごとき半妖…、」
いりすの鼓動が苦しいぐらいに大きく脈打ち、その身の内で激しく音を立てる。
「ましてや…」
不安が――、
身の底から込み上がってくる――。
「人間など…、この奈落の力を弱めるだけ」
奈落が滔々と語りながら自分の顔の近くまで力なく目を閉じた蛮骨をその肉の管を使って持ち上げ、全員の前にその姿を見せた。
いりすの鼓動が大きく跳ね上がった。
「蛮っっ!!」
分かっていたことではあったが、蛮骨の無残な姿を目の当たりにしたいりすは悲痛な声を上げた。
「いりすさん…」
隣にいるかごめはその悲痛な表情を見せるいりすの肩に手を添えてあげたかったのだが、如何せん、奈落の肉の管に捕まり身動きがとれなかった。
「くくく…、蛮骨の女か?…まったく、人間の愚かさには驚かされる」
蛮骨を呼ぶ悲痛な声に気づいた奈落はいりすのことをじっとりと見ながら、再び語り始めた。
「この蛮骨のごとき外道ですら、仲間の仇をとるためにこの場に踏みとどまり、犬夜叉、きさまに殺された」
奈落の言葉を聞きながら、いりすは顔を伏せて思いを馳せていた。
(愚か…?外道…?)
それは蛮骨のことだろうか。
いりすには奈落が誰のことを言っているのかが分からなかった。
「七人隊に与えたかけら、それを全て手に入れた時、敵討ちなど考えずに逃げれば良かったのだ」
そんなことを蛮骨ができるわけない。
仲間。
そう、仲間がいた。
蛮骨には大切に思う仲間がいた。
それが七人隊。
「くくく…、人間の愚かさには反吐が出る」
そう言いながら奈落は蛮骨の左腕に残された四魂のかけらを抜き取った。
「・・・・・」
いりすは黙っている。
そのまま、かけらを抜き取られた蛮骨の身体がさらさらと崩れ散り骨と化する様をじっと見つめていた。
「奈落!きさまーー!」
犬夜叉が怒りを顕わにして奈落に吠えかかる。
「何を怒る?犬夜叉。蛮骨に、直接手を下したのはきさまだ」
そして、奈落は蛮竜と犬夜叉が蛮骨から獲った四魂のかけらをも奪い取ると、自分の持つ大きな塊の四魂のかけらと融合させた。
それから眩しいほどの光が放たれると、その中から変化した奈落が現れた。
新しい身体を得た奈落は、ゆっくりといりすの方を振り向いて近づいた。
「なあ、女…」
いりすは心底冷めた感情のない表情で自分に近づいてくる奈落を見た。
「お前たちは、もう一人いたよな」
「っ!!」
これまでの奈落の言葉に、そして蛮骨の死に、もう冷え切ってしまったいりすの感情が再び動いて、鼓動が大きく跳ね上がった。
(もう一人……)
いりすの眉間に力が入る。
「凶骨、霧骨、銀骨、睡骨、煉骨、蛇骨…、そして蛮骨、お前とあともう一人……」
生き延びてもらうために、いりすと蛮骨が逃がした少女。
もう一人の七人隊。
「花珠……?」
「それは、これかな?」
そう言って奈落は一体の骸をいりすに差し出して見せた。
「っ!!」
いりすはその骸を目の当たりにし、それが身に纏う着物に見覚えがあったので驚愕した。
菜の花色のとても雅な柄の着物。
「花珠の…着物……」
「え?」
隣にいたかごめも驚いた。