麗死蝶
□第三抄
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それから一行は屋敷の中へと戻り、大部屋に集まった。
そして、蛮骨が順に仲間を紹介していく。
立木の2倍以上ある巨大な体格ゆえに屋敷に収まりきらず、外から中の話を聞いている【凶骨】。
彼とは対称的で一番小柄な【霧骨】は毒使いで、身体が毒に慣れてしまっていて、影響を受けない体質だそうだ。
それから、身体中に武器が仕込まれている機械仕掛けの【銀骨】。
髪を逆立てて眼つきが鋭く、着物にちゃんちゃんこを羽織った【睡骨】は、二つの人格を持っており、もう一つの人格が現れると全く正反対の性格になり優しい表情を見せるそうだ。
その優しい方の人格が医術を心得ており、眼つきの鋭い方の人格もそれができるため、滅多にないことだが仲間が負傷した時は彼が治療している。
煉骨は副将格で頭がよく切れて参謀役に就いている。
また武器の製造なども手掛けており、銀骨の調整なども定期的に行っているらしい。
そして、蛇骨。
彼は<七人隊>の中での切り込み隊長だ。
男だが男色家らしく、可愛らしい顔立ちの者が好み。
その気に入った相手を切り刻みたい衝動が沸き起こってくるという性癖の持ち主。
残虐性を持っているが基本的には無邪気な性格で、計算や参謀など難しいことは苦手である。
そんな常人の道理から大きく外れた者たちを束ねるのが、<七人隊>の首領である蛮骨だ。
彼は、弟分たちからの信頼も厚く、大兄貴と呼ばれ慕われているが、<七人隊>の中では最年少であった。
あの大鉾“蛮竜”を片手で振り回すことができる剛腕。
そして参謀は苦手だが、ひとたび戦闘が始まると直感がよく働き、強大な戦闘力を発揮する。
「そして、新たに加わったのが麗骨。こいつは巷で噂の<麗死蝶>だったんだ」
「っ!!?」
蛮骨が<七人隊>の仲間を一通り紹介し終えると、最後に麗骨を改めて紹介した。
<麗死蝶>と聞いて一同はまた驚きの表情を見せた。
「この小童が、<麗死蝶>!!?」
また蛇骨が声を上げた。
「まー、実際はもっと身窄らしい格好をしていたんだがな…」
蛮骨は頭を掻きながら、出会った時の麗骨の姿を思い出していた。
麗しい姿で――、
死神のように残虐で――、
蝶のように舞う――、
誰が見て誰が云い出したのか、それが<麗死蝶>だった。
麗骨は意外そうに見つめてくる一同に対して不満な瞳を見せた。
「印象なんて知らない!それに本当の“麗死蝶”はこの刀のことだし…」
また生意気な口を利いてしまう。
「そうだな!他人が云い出した噂だしな!」
弟分たちの顔色を見ながら蛮骨が補足する。
「それよりも麗骨、こいつらは皆お前の兄貴分だ。口の利き方や態度に気を付けろ!」
蛇骨に“小童”と呼ばれることがどうも気に障る麗骨は、蛮骨にそう諫められて何も言い返せず不満を胸中に溜め込んだ。
「それにしても、さっきの力……、お前、妖怪が化けてるわけではないよな?」
話題を変えるかのように、煉骨が先程見た麗骨の人間離れした力についてずっと思っていたことを尋ねた。
「・・・・・」
煉骨のその質問に麗骨は何故だか目を丸くして一瞬黙ってしまった。
「麗骨?」
その沈黙の間を不思議に思った煉骨が呼び掛ける。
「っ……、あ…、うん。私は妖怪ではないよ…」
では、自分はなんなのか……。
麗骨は頭の中で自問していた。
囲われ者。
慰み者。
死神。
殺しが好き。
女。
色々と思ってみるがしっくりとくる答えが見えてこない。
「じゃぁ、人間なんだな」
「っ!?」
人間離れしたあの力が脅威であることには変わりはない。
だが、麗骨自身の言葉で“妖怪ではない”と聞くことができて、煉骨や一同は安堵した。
麗骨はその煉骨の言葉に引っ掛かった。
「人間……?」
「・・・・・」
引っ掛かった言葉を繰り返して呟いた麗骨のことを蛮骨が心配気に見つめる。
「私、人間なの?」
「え?」
麗骨の呟きに一同が顔を見合わせつつ、彼の方へと視線を向けた。
野盗に囲われて、意思を失くし、感情を失くし、そして自分を失くして、それ以来ずっとモノだと思って過ごして来ていた。
「馬鹿野郎!」
「っ!!?」
一同が困惑している中、蛮骨が麗骨の両頬を両手で勢いよく包み込むと、怒鳴った。