合法ドラッグ
□drug5
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「飛鳥ちゃん、大丈夫?」
「……うん…」
花蛍が優しく声を掛けてくれる。
いつの間にかもう<みどり薬局>に着いていた。
「あぁ、ゆっくり休んで、ゆっくり考えなさい。でも、これだけは覚えておいて」
「・・・・・」
私はゆっくりと顔を上げて花蛍を見つめた。
「僕たちや彼らだけでも信じて欲しいんだ。僕たちは君に幻滅しない」
「・・・・・」
私は、過去の<トラウマ>と今の不安が綯い交ぜになったこの心の中で、その言葉をどれだけ受け留めることができただろう。
だが、嬉しい気持ちや前進できるような気持ちが沸き起こってきたような、そんな感じがした。
花蛍は意地悪い性格だが、でもその実とても優しいヒトだと思う。
「ありがとう…」
私はそう言って、自室へと戻って行った。
* * *
「あ〜〜!俺ってやっぱ、もてあそばれやすいんだーーっ!!」
私は花蛍と別れてから、少し寝入ってしまっていたようだ。
風疾と陸王の二人は同室で、私の部屋の隣になるのだが、彼らは<もう一つのバイト>から帰って来たのだろう、風疾が大声を上げていたので、私は目を覚ました。
また、その仕事で好き勝手されてしまったのだろう。
壁が薄いのでくぐもって何か二人がまた言い合いをしているのが窺えた。
だが、その声が聞こえなくなると、隣の部屋の扉が開閉する音が聞こえてきて、少ししてから、私の部屋の扉がノックされた。
「飛鳥?起きてる?」
風疾が扉越しに声を掛けて来た。
私は扉の傍に寄り、開けないで様子を窺った。
「入ってもいい?」
「どうして?」
少し神経を研ぎ澄ませて気配を探ると、どうやら扉の外には陸王も一緒にいるようだった。
「花蛍さんに、陸王と一緒に行ってあげてって言われて……」
(花蛍か……)
私は、観念して扉を開けて二人を部屋に招き入れることにした。
「どうぞ」
花蛍が二人を連れて来たということはとりあえず、腹割って話し合ってみろってことなのだろうと私は理解した。
私の部屋はごく普通で、一人暮らしをしていたアパートから何点か家具をこちらに移してきた。
ベッドも風疾たちのは簡易のものだが、自分はずっと使っていたものを置いている。
それと小さなテーブルと背の低めの棚が二つほど置いている。
キッチンは共用スペースがあるので、三人で当番制で食事を作っている。
「えっと…、花蛍さんに話を聞いてあげてって言われたんだけど…」
風疾が気遣わし気に控えめに私に訊いた。
そんな様子が少し面白いと思えるようになったのは、私の進歩だろうか。
「昨日…、炯さんや月湖さんと一緒にあの“猫”が見せた人物がいたでしょう」
私は二人に話し始めた。
「あの娘は【波紀】って言って私の幼馴染だったんだ。でもね、私の力を目の当たりにしてしまったコトがあって、それ以来、恐れられて嫌われてしまったの」
『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』
「普通と違うことを嫌う娘だったの。<超能力>とかそんなこと信じられないって…、そんなの“化け物”だって言われた……」
幼馴染だから彼女の性格を知っていた私は、ずっとひた隠しにしていたというのに、ある日それがバレてしまった。
「今はだめ…、まだ…だめ…」
他人を信じる気持ちが分からなくなってしまっている。
「どうして?」
「・・・・・」
駄目だと言う私に風疾が疑問を投げかける。
「今は俺たちと普通に話してるじゃないか?」
「・・・・・」
それでも。
まだ踏み出せていない。
「飛鳥、さっきの祭りの時のことか?」
「・・・・・」
さすがに陸王は鋭い。
どれだけ話して仲良くなってきていたとしても、まだ“完全”になりきれない。
今日みたいに、彼らが大丈夫だと分かっていても逃げ出してしまう。
「その通り…」
そして、膝に置いた手に力を込めて、衣服を強く握り締める。
「信じたいけど…、頼りたいけど…、」
その気持ちは大きくなってきているのだが、波紀がいるかもしれない処は怖くて、他人が怖くて、どうしようもなくなる。
「飛鳥っ!」
「っ!?」
急に風疾が大きな声で呼び掛けてきたかと思うと、私の頬を両手で覆い包んだ。
「今すぐ信じなきゃいけないわけじゃない。けど、少なくとも俺や、陸王は飛鳥のことを信じているよ」
大きな真摯な眼差しが私の不安を貫いていく。
「俺らは化け物だなんて思わないし、ありのままの飛鳥を幻滅なんかしない」
「ゆっくりでいい」
「っ!?」
いつの間にか、陸王も私に寄り添ってくれていていつもの安心する大きな手を頭の上に乗せて言った。
「ゆっくり考えて答えを出して行けばいい。俺たちは逃げて行かないし、同類として、その中の男として、お前を受け留めるさ」
私は両手で顔を覆った。
なんて優しいのだろう。
なんて温かいのだろう。
そんな風に感じた瞬間に、涙が溢れ出て来た。
「前に進みたい。二人と一緒に」
「うん」
「あぁ」
二人共頷いてくれた。
私は少し暗い世界から這い上がることができたような気がした。