合法ドラッグ

□drug4
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 風疾と陸王はそれから話し込んでいた。

「あいつ、なんか俺たちをここに誘導して来たみたいな感じだったんだ」

 風疾がそう言った。

 なかなか鋭いなと風疾のことを感心していると、突然に“猫”が犬が遠吠えするように一声鳴いた。

 それから“猫”の足先からしゅるしゅると毛糸が解けていくように形が変わり始めた。

「3階から飛び降りて平気だっつうことは、ただの“猫”じゃねぇとは思ったが…」

 変形していく“猫”を見て慌てふためく風疾の横で、ため息をもらしながら陸王が冷静に言った。

「・・・・・」

 私は二人の一歩後ろから、“猫”が作り出す私たちの会いたい人の姿と、彼らの様子をじっと見つめていた。

 そして、“猫”は形を作り出す。

 一人は、着物を着ていて、風疾と同じ髪色の長髪の綺麗な少女。

 もう一人は対照的な長い黒髪の女性で肩を露わにしたワンピースの綺麗な女性だった。

 風疾と陸王はそれぞれの女性の姿を目の当たりにして心底驚いた表情を見せていた。

 そして、その二人の女性の後ろにはもう一人、制服姿のウェーブかかった茶髪の少女も表されていた。

 その少女は私の知っている娘だ。

 少しの予感はあったのだが、まさか会いたい人物であろうとは思っていなかった私は完全に動揺してしまっていた。

 私は彼らの後方で、本当に自然に呟いた。

「炯さん…風疾がずっと傍にいると約束したヒト。月湖さん…陸王と関係のあるヒト」

 それを、地獄耳なのかそれとも動物的なのか、風疾が聞き逃さなかった。

「飛鳥、どういうことだ?今の?」
「え…?」

 独り言のように呟いたつもりだったのだが、聞きつけた風疾が詰め寄って来たので私は驚いた。

「炯のこと…、なんで知ってんの?」

 揺らいだ気持ちが治まっていない状態だったが、私は、花蛍が言ったようにまだ伝えきれていない自分の能力のことを伝える機会だと思った。

「…私の…、力で…」
「?」

 風疾はその大きな眼を真っすぐに私に向けて続きの言葉を待っている。

 陸王も、私が先程のこの“猫”の行き先を分かっていたことも含めて気になっている様子を醸し出している。

「<超能力>と一言で言っても、色々と能力の幅があって…、未来が視える<先見>やヒトやモノの過去が視える<過去視>、あとは関わるヒトの周りのヒトとかモノのこととか視える<透視>があって……」

 望んで視えるモノと、勝手に視せられるモノがあることを伝えた。

「そんなっ!!なんで……、」

 私の能力を更に知った風疾は、その能力に納得いかないところがあるのか、理解の範疇を越えているのか、驚きの勢いに任せて何か言おうとしていたが、陸王がその彼の口を塞いだ。

 そして、陸王はいつものようにその大きな手で私の頭を包み込んでくれた。

 風疾は昂った気持ちを落ち着けると、はっとして私の様子に気づいたのだった。

 私は、何を言われても仕方がないと意を決していたのだが、いざ暴露してしまうと心の中は不安と恐怖に塗れていた。

 怖くて怖くて仕方がなく、風疾の気持ちも分かるので、顔を伏せて耐えていた。

 だが、陸王の優しさを感じた瞬間に、その目には涙が浮かび、それがそのまま雫となっていく。

 その間に、三人の女性の姿を見せていた“猫”は元の“猫”の姿に戻っており、風疾の胸の中に再び納まっていた。

 私は、伏せた頭を上げられないでいる。

 だから、陸王は私の背にそっと手を当てて、帰る合図を送るとそのまま背を押して一緒に歩いてくれた。



 <みどり薬局>に帰り着くと、花蛍が待っていた。

 私は彼に気づくと、すぐに彼の元へと縋りついて行った。

 花蛍はそのまま私に手を回して抱き締めてくれ、頭を優しく撫でてくれた。

 そして、二人に向かって言った。

「おかえり。この“猫”公園に行って、今、君たちが一番会いたい人の姿になってくれたでしょ?もう、逃げないから、栩堂君よろしくね」
「・・・はい」

 風疾は花蛍にそう言われて、“猫”を見つつ、少し気まずい表情を見せている。
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