麗死蝶
□第二抄
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殺したいという欲のためだけにさ迷い歩き続けていた麗は、やっと“生きているモノ”たちを見つけた。
それからは張り詰めた糸を緩めないようにするかの如く、村から村へと渡り続け、殺しては血を浴び、殺しては血を浴び、求めていた快楽の海に沈んでいっていた。
村に居る全ての“生きているモノ”を殺し尽くしてきた少女の着物はそれらの血がこびりついて、川を渡ろうが、雨に打たれようが、薄れることが全くなかった。
寧ろ、次第に濃く、濃く、染め上げられていく。
幾人もの血に染め上げられた着物の根底には野盗たちの血が染みついている。
一生離さない――
いつまでもお前を囲い、弄び、辱め続ける――
お前は永遠に慰み者だ――
麗にはまだ殺めた野盗たちに囚われているような感覚があった。
だから、村を求めた。
“生きているモノ”を求めた。
殺すことを求めた。
血を求めた。
『そいつらの血を纏っていることを、お前は心の底では気持ち悪がってるじゃねえか!』
『お前は村を潰して人を殺してきた。そうやって新たな血を浴びて、お前を慰み者として囲ってきていた奴らの血を覆い消そうとしてるんだよっ!!』
温かい言葉。
温かい想い。
無意識に野盗の思念に絡め捕られてしまっていたことに気づかせてくれた。
本当に心が軽くなった。
野盗に襲われて亡くしてしまった両親以外の人に初めて本心から心配してもらった――。
∴∴∴
麗は思い返しているうちに、また眠り込んでしまっていた。
突然、冷たい水が顔に落ちてきたので驚いて飛び起きた。
「な…なに!?」
「おう!おはよ!」
水を掛けてきたのは蛮骨だった。
悪戯っ子のような笑みを見せている。
「逃げなかったんだな」
麗がこの場に留まっていることが少し意外そうだった。
「疲れてた……」
顔に掛かった水を手で拭いながら麗は素直な気持ちを呟いた。
「あー…そうですか……」
蛮骨は寝る間も惜しんで、麗の為に色々と調達してきて、麗はさっきまで寝ていただろうにと文句を言いたそうな表情で蛮骨は答えた。
「で?」
「え?」
次に唐突に内容もなく尋ねられて、麗は間髪入れずに何のことだと聞き返した。
「俺の相棒“蛮竜”に甘えてここに居残ってたってことは、俺の誘いに乗るってことか?」
「・・・・・」
麗はまだ好きに任せている前髪の隙間から目を丸くして見せた。
蛮骨が戻って来てからの会話の中でそんなやりとりは一切なかったからだ。
(我が道を行くんだなー)
麗は心の中でしみじみと思った。
そして、会話の流れにはなかったが、改めて勧誘されたのだ。
蛮骨の誘いに乗るか乗らないか、麗はじっくりと考えた。
「・・・・・」
蛮骨は黙って麗を見つめた。
急に彼女の纏う気が変わった。
自分の利益になるのかどうかを考えているのか。
これからの身の振り方を考えているのか。
(こりゃ、煉骨に次ぐ策士だな)
七人隊の中にも頭を使って策略を練ってくれる者がいる。
その者と同じようにして考え込んでいる 麗の様子を蛮骨は面白く感じた。
そうしていると、意を決したかのように麗が顔を上げた。
そして――、
「その誘いを受けるよ…」
麗の返事に蛮骨は満足そうな表情を浮かべると、言い放った。
「じゃぁ、今からお前は【麗骨】だ」
麗は、麗骨と名を改め、七人隊の一員となったのだった――。