麗死蝶
□第三抄
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「こいつは麗骨。七人隊に加えることにした!」
蛮骨は麗骨を連れて自分たちの隠れ家まで帰って来ていた。
出掛けてからなかなか帰って来ない大兄貴を心配していた仲間たちは、蛮骨が帰って来るとすぐさま出入口まで集まって来た。
全員が集まってきたことに少し驚いたが、手間が省けた。
この場で麗骨のことを紹介したというわけだ。
仲間たちは、大兄貴がもう一人引き連れて帰って来たなとは思っていた。
だがしかし、どう見ても子どもであるその人物のことを仲間に加えると聞いて、全員が息を呑んで驚愕した。
「おいおい、蛮骨の大兄貴ぃ〜、頭がおかしくなっちまったんじゃないか?」
男性の割には声が高めの青年が一番に声を上げた。
唇に紅を差し、結った髪には簪を挿している女性物の着物を身に纏っている。
「こいつ、どう見ても小童じゃねえか!?すぐに死んじまうぞ!?」
「・・・・・」
完璧に馬鹿にされたと思った麗骨は、その青年を鋭く睨みつけた。
「なんだぁ?生意気な面だなー!」
麗骨の反抗的な態度に気づいた青年は、苛立ちを見せた。
「まーまー、【蛇骨】!」
蛇骨と呼んだその青年に対して蛮骨は両手を出して落ち着くようにと仕草で諌める。
麗骨は身だしなみに煩いと蛮骨が言っていたのはこの男のことかと心の中で理解する。
その蛇骨は蛮骨よりも年上のようだが、大兄貴と認めている彼に諌められてはそれを無視することはできなかった。
蛇骨だけではない。
蛮骨を大兄貴と仰ぐ七人隊の弟分たちは皆、蛮骨よりも年上のように見える。
蛇骨は胸の内で少し悶々とする気持ちが残ったが、収めることにした。
みんなが麗骨のことを“小童”にしか見えないのは仕方がないことだった。
身なりを整えた麗骨は、墨を落とし込んだような漆黒の水干を着ていたのだ。
それというのも――、
∴∴∴
「じゃあ、今からお前は麗骨だ」
「麗…骨……?」
麗はどうして名前を改める必要があるのかと疑問に思い、その理由を聞きたくてじっと蛮骨の顔を見つめた。
「とりあえず、身体をきれいにしてこいっ!」
だが、蛮骨は何故だか話を逸らした。
そして、手にぶら下げていた陶器の容れ物を麗に向けて差し出した。
「なに?」
「冷めないうちに使え。ふのりを煮立たせて持って来た。これで全身洗え」
煮立たせたふのりは髪や身体の汚れを落とすのに最適である。
本当はお湯で洗い流すのがより効果的なのだが、血まみれのこの少女を人里に近づけるわけにもいかず、また、湯を使うとなると時間とお金が掛かってしまうので、川の水を使うのが一番手っ取り早かった。
だから、このふのり自身が熱いうちに使うのがいいだろうと麗を急かす。
蛮骨は衣服などの必要な物を揃えたあと、最後に店の者にふのりを煮立たせて冷めにくいだろう陶器の容れ物に入れて急いで戻って来たのだった。
気を使って戻って来たが、そうは言っても少しばかりは冷めてきているだろう。
麗は、蛮骨の心遣いに目を丸くしながら、差し出されたふのりの入った容れ物を受け取った。
そして、一旦その容器を草の上に置くと、大胆にもその場で着物を脱ぎ始めたのだった。
「なっ!!」
蛮骨は心底驚いた。