麗死蝶
□第三抄
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「お前は人間だ!」
「!!!」
麗骨は自分が野盗の慰み者になり、彼らに抵抗したところで無駄だと分かった時に、人間としての価値を感じなくなった。
その時のことを引き摺っていることが、蛮骨にはありありと理解できたのだ。
そして、麗骨の中で野盗に囲われていた時の感覚が在り続けることが蛮骨にとってはどうしても忌々しく腹立たしい。
麗骨は目を大きく見開いて驚いた表情を見せている。
「お前は人間なんだよ!」
蛮骨がもう一度、麗骨に言い聞かすように力強く言い放った。
麗骨の大きく見開かれた瞳が左右に揺れ始める。
「お前が今まで殺してきた奴らも人間。俺たちも人間。だからお前も人間なんだよ」
蛮骨は最後に自分たちの姿をしっかりと麗骨に見せて、人間であるということを認識させる。
「私は…人間……」
「あぁ。そうだ」
そうしてそのまま抱き締める。
「俺たちはお前が助けて欲しい時に助けに行くし、お前が話をしたい時には話をする」
麗骨は自分が男として振る舞っていることを半ば忘れ、蛮骨の胸の中に顔を埋めて彼の言葉を聞き入る。
「そしてここが人間のお前の居場所だ」
抱き締めていた腕を解いて、その手を麗骨の肩に置くと顔を見合わせた蛮骨がまた柔らかい笑顔を自分に向けてくれる。
麗骨の中で温かい気持ちが湧き上がってくる。
そして、周囲を見渡した。
霧骨、銀骨、睡骨、煉骨、蛇骨と外にいる凶骨が自分のことをじっと見つめている。
蛮骨の誘いを受けた時に、自分は居場所を求めたのだということを思い出した。
まだ仲間に加わったばかりで、蛇骨とも初っ端から衝突してしまったが、きっとこれから関係を築いていけるだろう。
ここが人間の私の居場所――
麗骨は蛮骨に諭された言葉をしっかりと噛み締めた。