麗死蝶
□第四抄
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七人隊の隠れ家は、山の奥に潜むように建てられている。
諸大名たちからの報酬で建てたらしいそれは徒人には贅沢なぐらい大きな屋敷だった。
食事や話し合いなどで全員が集まる大広間と、あとは各々の小部屋がある。
蛮骨は部屋の数が余っていたので襖を開けて二部屋を広々と使っていたのだが、その一間を麗骨に宛がうことにした。
一日で色々なことがあった。
蛮骨と出会い、身なりを整えてもらい、<七人隊>に加わり、その為に力を存分に使うこととなった。
麗骨の力はもう尽き果てていた。
皆の前にいる手前、気力で起きていたようなもので、蛮骨から案内された部屋に入るや否や布団を敷いてその中に包まり、すぐに寝息を立てて寝入ったのだった。
布団の中に包まりながら“麗死蝶”を手離すことなく、抱き締めて眠る。
“麗死蝶”を手にしてからそれはもう習慣になっていた。
いつ何が起こるか分からない戦乱の世。
もう、他人に好き勝手にされたくない思いを持った麗は、それを常に身に着けて片時も離すことがなかった。
もしも、深く寝入ったことがあったとしても、“麗死蝶”が危険を知らせてくれるからだ。
これは妖刀。
それ自身に意思がある。
そして、これと自分は思いが繋がっている。
だから、護ってくれるのだ。
だから、これがあれば安心できるのだ。
麗骨は次第に深く眠っていった。
「う……、う、うぅぅ…」
しばらくして麗骨は呻き声を上げ始めた。
夢を見ている。
表情は苦悶に満ち、不安を拭うかのように抱き締めていた“麗死蝶”をしっかりと握っている。
「うっ……、うぅ…、」
幾人もの顔が現れる。
色欲に溺れた忌まわしい男たちの顔が立ち代わり入れ代わり見えてきて、麗骨を弄び始める。
陽物を咥えさせられたり、それで身の底を突き上げられたり、身体を舐め回され、愛撫される。
時には反応を求められて殴られることもあった。
「うぅ……、う……」
野盗に囲われていた時に失っていた感情を取り戻した麗骨は、夢の中の出来事ではあったが、初めて、それらを気持ち悪いと思った。
気持ち悪くて、苦しい。
そして、あの日に“麗死蝶”がその力で消滅させた野盗の頭目の顔が最後に浮かび上がってきた。
「はっ!!!」
そこで麗骨は勢いよく目を開けて目覚めた。
視線をさ迷わせると、辺りは真っ暗で、まだ真夜中の時分のようだ。
荒くなった息を整えながら、野盗たちの顔が見えていたのは夢の中であったのだと認識する。
忌まわしい夢だった。
冷や汗が滴り落ち、動揺が治まらない。
荒い呼吸を整えることが難しい。
麗骨はもう一度視線をさ迷わせた。
そして、隣の部屋を隔てている襖に目が向いた。
襖の先のその部屋には蛮骨が眠っている。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、」
まだ、呼吸は整わない。
身体が足りないと訴えている。
何が足りないのか、分からない。
分からないが今、どうしても彼を求めてしまう。
麗骨は “麗死蝶”を持ったまま、四つ這いで布団の中から這い出ると、その襖の方へと進み出した。
そして、そっと襖を開いた。
「ん?」
隣の部屋から唸るような苦しそうな声が聞こえるのに気づいた蛮骨はそっと目を開けた。
それから少しすると、隣の部屋とを隔てる襖が開いたので身体を起こした。
「麗骨か?」
蛮骨はまだ暗闇に慣れていない目を凝らした。
襖が開くと麗骨はゆっくりと這ってこちらに向かってきていた。
(夢見が悪かったのか?)
麗骨の動きはどこか無意識のような、意思のないような感じを受け、蛮骨はどうしたのかと心配になった。
布団の上で身体を起こして胡座をかいて座り、麗骨を待った。
麗骨が進む度に金属音が聞こえている。
蛮骨はそれがなんなのかと考えていたが、麗骨が近くに来てその正体が“麗死蝶”であることが分かった。
(ずっと持っていたのか?)
眠る時でさえ片時も手離していないらしいそれが蛮骨は気になった。
それに気を取られているうちに麗骨が蛮骨の元に辿り着き、彼の胡坐の中に顔を埋める。
「どうした、麗骨?そんなに夢が怖かったか……、っておいっ!!」
蛮骨は夢見が悪くて怯えてきたのかと思って声を掛けたのだが、突然に自分の股の間で違和感を覚えた。