麗死蝶
□第四抄
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「まぁ、そう言うなや」
蛮骨は苦笑を見せながら蛇骨に返す。
蛇骨は蛮骨の元へと歩き出す。
そして、彼の褥の前でしゃがみこんだ。
「すっかり寝ちまってるじゃねえか」
蛇骨は半眼になりながら麗骨のことを見下ろした。
彼もまた“麗死蝶”が気になった。
「こいつ…、また刀を抱いて…」
「安心するんだとよ」
それにしても、この刀の力には唖然とさせられてばかりだ。
掴んでいる手から離そうと触ると拒絶するし、麗骨が力を発揮して刀を振るうと人間までもが消滅してしまう。
「いわゆる、妖刀ってやつなのか?」
蛇骨が珍しく頭を使っている。
いや、元々、殺しに関することには直感がよく働く。
「今まで、護ってもらってたんだと…」
「なんだそりゃ?」
刀に護ってもらうとは。
蛮骨は麗骨の過去を知っているが、蛇骨は知らない。
その蛇骨は、麗骨がここに来るまでにどれほど過酷な状況にあったのかが全く分からない。
「でもまぁ、こんだけ可愛い顔をしてたら、男でも狙われるわな」
「・・・・・」
蛮骨はさらっと言ってしまう蛇骨を黙って見つめた。
「ん?」
蛇骨は怪訝そうに自分を見つめる大兄貴に気づいた。
「俺はしねーよ!」
蛇骨の場合、強姦すると言うより、好みと思った瞬間に切り刻んでその血を見ながら、悲鳴を上げる相手に興奮して愉しむのだろうなと彼の趣向を思い返して、蛮骨は半眼になった。
蛇骨は麗骨と晩酌でもしようかと思ってやって来たのだった。
だが、その当人が眠ってしまっている上に、それが大兄貴の元にいるので、今晩は自室の方へと引き上げることにした。
蛮骨は、彼の晩酌に付き合うのにと思いつつ、蛇骨が麗骨を構うことが少しだけ気になってしまった。
初めはあんなに険悪な雰囲気だったというのに、麗骨もそれを忘れたかのように蛇骨と話している。
このはっきりと見えてこない自分の気持ちは何ものなのかと蛮骨は自問自答を始めるが、答えは全く見えてこない。
そうして、自分の褥で安らかに眠る少女に視線を落とした。
その頬を優しく撫でる。
護りたいと思う。
忌まわしい思念から救い出したいとも思う。
大切だと思う。
これは弟分だから沸き起こる思いなのか、なんなのか。
(だー!考えてもしょうがねえ!)
やはり自分の問いに答えが出てこない。
蛮骨は麗骨の隣に改めて身体を横たえるとそのまま目を閉じ、しばらくして眠りに堕ちていった。