麗死蝶
□第六抄
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麗骨が七人隊に加わってから数日が過ぎて行った。
あれからずっと薪割りを続けており、蛇骨や睡骨、凶骨と実践で鍛錬もしている。
霧骨からは毒の草や食物を教えてもらうこともある。
それに関しては麗骨にはあまり役に立たなさそうではあるが。
「くっ!!」
今日も朝から蛇骨と睡骨と共に戦闘実践を始めていた。
“麗死蝶”の力を使わずに、麗骨の力のみで刀を振るっていくことの鍛錬だ。
薪割りを続けていく中で、斧の振り方もだいぶと腕の力で調整することができるようになってきた。
それでもまだまだ戦闘時の刀の振りには力が足りないでいる。
“麗死蝶”から力を借りてしまう。
だから蛮骨や蛇骨たちは、まずは麗骨の戦闘力の底上げを図っているのだった。
蛇骨が手加減も無しにその愛刀“蛇骨刀”を振るう。
弓なりになった刃が幾重にも連なっている仕込み刀は、縦横無尽に刃が飛んでくる。
連なっている分、予測もつくのだが、その動きが速いのだ。
一振り目は刀を交えてかわすことができたが、その次の瞬間に蛇骨の元に戻ったかと思うと二振り目が飛んで来た。
麗骨は寸でのところで持ち味の足の瞬発力で飛び退り、刃をかわすことができた。
だが、その避けた先には睡骨が立っていた。
「あっ!」
睡骨は容赦なくその爪の刃を麗骨に向けて振り下ろした。
金属が重なり合う音が響く。
麗骨は刀でそれを受け止めたのだ。
そして、押し戻したくて腕に力を込めると、眉間にも力が入っていく。
麗骨の鋭利な瞳に光が宿ったその瞬間――、
「やめだっ!!」
「っ!!」
蛇骨は麗骨のそれを見逃さず、大声を放った。
麗骨と睡骨の動きが止まる。
「ま〜た、刀の力に頼ったな〜」
後ろ頭に手を当てて、少し空を仰ぎ見ながら蛇骨が呆れた風な口調で二人の元に歩み寄って来た。
「え?」
麗骨にはその気がなかったので、まぬけな声が漏れてしまう。
蛇骨は、麗骨の目の前まで来ると指で額を弾いた。
「ほら、分かってねえじゃねえか」
麗骨は額に手を当てながら、蛇骨を見上げた。
「力を込めると、その刀も応じるようだな」
この何日か相手をしてきていた睡骨もそれに気づいて麗骨に冷静に伝える。
「自分の持てる力以上の動きをすると、怪しい輝きを見せ始める」
「・・・・・」
麗骨にとっては無意識だった。
“麗死蝶”と出会ってからそれが普通であったから、そこの境界がいまいち掴みづらい。
「もう一度だな」
蛇骨が“蛇骨刀”を再び構え始める。
「いや、終わりだ」
「!?」
横から新たに声が沸いてきて、蛇骨は構えを解いてそちらを見た。
麗骨と睡骨も同じく視線を動かす。
そこには蛮骨がいた。
「依頼が入った。凶骨以外は準備しろ」
親指を立てて後ろを差しながら屋敷に戻るように指示をする。
蛮骨の言葉を聞いた瞬間に蛇骨と睡骨の瞳の色が変わった。
闘いに出られる条件反射だろう。
鋭い光が宿っている。
それは自分も同じことだが。
蛮骨に言われてすぐに準備をして大広間に集まった。
「よし、お前たち行くぞ!」
蛮骨が仲間たちに勢いづけると、麗骨は武者震いが起こる。
自然と嗤えてくる。
そして妖艶な光が瞳に宿り始める。
麗骨の闘いへの気持ちが入っていった。