麗死蝶
□第七抄
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「うっわ〜!」
麗骨は凶骨の掌に乗せてもらい、彼の目線からの景色を見せてもらっていた。
立木の二倍もある凶骨は森の木よりも上体部分が高くはみ出ており、森の全貌を見渡すことができた。
「凶兄はいつもこんな景色を見てるんだな」
麗骨が無防備な笑顔を凶骨に向ける。
凶骨はそんな風に言ってもらったことがなかったので、少しだけ頬を染めて照れた。
「それに上の方は空気も澄んでいていいな」
凶骨の開いた両方の掌の上に座りこんでいる麗骨は鼻から息を吸い込んで深呼吸をすると真っすぐに目の前に広がる景色を見つめた。
掌を目の高さまで上げている凶骨はその麗骨の横顔を見つめた。
<七人隊>は外道集団。
霧骨や銀骨、自分のように身なりから人離れしている者もいれば、睡骨や煉骨、蛇骨、そして蛮骨のように顔立ちの整った者もいる。
その中で、麗骨はそれとはまた違う印象を受ける。
朝日に照らされている麗骨の顔をじっと見ながら、蛮骨たちのように整ってはいるが、彼らとは違い、どちらかと言うと麗しいと凶骨は感じたのだった。
その朝日を見つめる憂えた瞳は一体何を考えているのだろうか。
凶骨はなんだか麗骨が気になり、じっと見つめていた。
(知らなかった…、この世界がこんなに澄んでいて綺麗だなんて……)
麗骨は風に靡いて顔にかかる髪を指で払いながら、景色をじっと見つめて改めてそう思った。
少し前に蛮骨に言われたこと。
『自分を殺す奴を待つな。お前は生きようと思うんだ!』
地面に立っているだけでは知ることのなかったこの景色。
きっと高い山に登っても見下ろすことはなかっただろう景色。
夜とは違う静けさに麗骨は自分の心が澄んでいく感じがした。
『こーらー!麗骨ぅ!!!!』
「っ!!?」
景色を堪能し、心が満たされているところに、声が湧き上がって来た。
麗骨は声のした方を見下ろした。
蛇骨だった。
「お前!凶骨も!!今は鍛錬の刻だろう!!なに怠けてんだよーー!!」
「うわっ!見つかった……」
凶骨の掌から顔を覗かせて蛇骨を見下ろす麗骨は、片目を瞑って渋面を見せた。
「また言ってくれたらいつでも見せてあげるよ」
「うん。ありがとう、凶兄」
そう言うと凶骨は麗骨を地面へと降ろした。
そして、地面に足を着けた瞬間――、
「くっ!!」
麗骨は殺気を感じて、すぐさま刀を抜いた。
「おぉ!見切ったのは褒めてやるぜ」
「蛇子兄……、卑怯な!!」
蛇骨が“蛇骨刀”を振り下ろしたのだった。
「何言ってんだ。怠けてたくせに」
「怠けてない!小休止をとってたんだ!」
「それが怠けてるっていうんだよっ!!」
「はっ!!」
言い合いをしながらも蛇骨は“蛇骨刀”を振るい、麗骨はその刃の向かうところを予測して“麗死蝶”で受け止める。
そして、蛇骨が“蛇骨刀”を引いたのを見るや否や、麗骨はすぐに走り込み、彼との間合いを詰めて行った。
「おっ!」
蛇骨は間合いを詰めるために突進してくる麗骨を見て、感心の声を上げた。
麗骨はその身軽さ故に瞬発性がある。
だが、それと同じくらい蛇骨にも瞬発性があった。
麗骨が向かって来ることが分かった蛇骨は、足に力を込めて後方に二歩ほど跳んで間合いを取ると、間髪入れずに“蛇骨刀”を振り下ろした。
「っ!!?」
麗骨は間合いを詰められなかったことと、向かって来る“蛇骨刀”に一瞬だけ目を見開いた。
(やっぱり、闘いになると動きが素早くなる…)
ずっと一緒に鍛錬してきて蛇骨の戦闘能力のほとんどが分かってきた麗骨は、戦闘中の彼の直感力とそれに対する瞬発性の高さに苦汁をなめていた。
自分もその直感力と瞬発性を持ってはいるのだが、蛇骨にはまだまだ追いつけないでいる。
麗骨は向かってきた“蛇骨刀”の刃を“麗死蝶”の一振りで回避した。
「なっ!!」
だが、その刃はそのまま麗骨の周囲に回り込んできて、そのまま巻き付き、身動きが取れなくなった。
「うっ……」
下手に動くと切り刻まれてしまう。
「ふー、まだまだだな〜」
蛇骨がにんまりと楽し気に笑みを見せる。
一方で麗骨はそんな蛇骨に対して悔しくて渋面を見せる。