麗死蝶
□第八抄
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「いっ……」
それからすぐに、今朝、蛇骨が顔を埋めてきた時と同じような小さな痛みが首元に走った。
「あ……」
蛮骨はそのまま麗骨の首筋を舐め始める。
麗骨は甘美に震えそうになる。
「蛮…兄……」
麗骨に名を呼ばれ、蛮骨は首元から顔を離した。
恍惚とした表情を麗骨は見せている。
「ちっ…」
いつもそうだ。
この表情を見せられると、抑えていた気持ちが身の底から湧き上がってくる。
そして、遂に勢いに任せて口づけを交わした。
舌が絡みついてきて、息をするのが難しくなる。
だけど離したくなくて、麗骨は再び蛮骨の首元に腕を回して密着する。
快楽に身を委ねた。
お互いの息が荒くなり、一旦離れると、麗骨はじっと蛮骨のことを見て言った。
「あなたで…、満たして欲しいって……言ったでしょ?」
「っ!!?」
それは、<七人隊>にやって来た日の夜にあった出来事の中での麗骨の悲痛な思いの言葉だった。
「あの時のあの言葉は気の迷いでもなんでもなかったんだ…」
確かに夢見が悪く、少し狂っていたかもしれない。
だが、しっかりとあの夜の出来事のことは覚えている。
歪んだ習慣に囚われていたかもしれないが、意思ははっきりとあったのだ。
「だから……お願い……」
縋りつくように麗骨は蛮骨に抱き着いた。
「いや…だめだ……」
「え?」
だが、またしても蛮骨は行為を止め、冷静な声音で麗骨を自分から離した。
「今日はお前も疲れてる。さぁ、寝るぞ」
「あっ……」
そう言うと、麗骨を抱き上げて、敷いていた褥へと横たえる。
蛮骨は炎の灯りに息を吹きかけて消すと、麗骨の横に寝転がった。
そして、いつものように麗骨の手を握った。
(どうして…なの?)
麗骨は不安に思った。
ほんの瞬間だけの温もりとあの快感は夢だったのか。
あれは蛮骨の想いを表していたのではないのか。
麗骨は、蛮骨が握った手を振り解くと反対側を向いて両手で“麗死蝶”を抱いた。
蛮骨はただ黙ってその様子を見ているだけで、執拗に求めようとはしない。
麗骨が蛮骨に満たして欲しいと思うその気持ちに嘘偽りはないというのに、どうすればいいのか、何が足りないのか、どう考えても分からない。
(蛮骨……)
“麗死蝶”の柄に額を当てて落ち着こうとする。
だが、不安の想いは拭えないままに夜を過ごしていった。