麗死蝶
□第十抄
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朦朧としそうな意識の中、何がどうなったのかよくは分かっていないが、麗骨の目の前には蛇骨がいて、背後に蛮骨がいる。
休憩も束の間、身体の向きが変わった途端に、二人の欲望がまた身の底を突き上げ始めた。
「あぅっ!ま…って…、あっ!あ……」
「お前が煽ったんだ。どうなっても知らねえからな」
麗骨は、蛮骨の言葉を思い出した。
快楽の獣と化してしまった二人を実感して、この言葉の意味をようやく理解したのだった。
だが、それは時すでに遅し。
しかし、麗骨に後悔はない。
やっと、
やっと愛しい人に心底満たされることができたのだ。
自分を優しく温かく包み込んでくれる人――。
蛇骨、
そして、蛮骨。
攻め込まれる快楽の中、そんな風に思った麗骨は、突然に意識が途切れていってしまった。
「お?」
「あ?」
「・・・・・」
蛮骨と蛇骨は、先程まで喘ぎ反応を見せていた麗骨のそれがぷっつりと途絶え、ぐったりと力なく倒れ込んだので、とうとう意識を失くしたなと思った。
「初回から飛ばし過ぎたか?」
「大兄貴は自分で焦らしに焦らしてたから、溜まってたんじゃん?」
「うっせっ!!」
意識を失くし寝転ぶ麗骨の真上で、男二人は尚も欲望のままの獣な会話を続けていた。
だが、すぐに会話を終えると、蛇骨が褥を敷き始めた。
蛮骨は麗骨を抱き上げて、寝間着を着せてから布団を掛けて寝かせる。
二人も寝間着を被ると、蛮骨は眠る麗骨を傍に腰を下ろし、そっと彼女の寝顔を覗き込んだ。
「悪趣味…」
「なっ!ばっ!・・・」
急に耳元で蛇骨がそう言うので、蛮骨は柄にもなく焦ってしまった。
蛇骨は嫌味ったらしい笑みを蛮骨に向けた。
「そんなんじゃ、ねぇよ…。ただ…、」
「ん?ただ?」
意識を失って眠った麗骨だが、今までに見たこともないような安らかな表情をして眠っていたのだ。
それに、“麗死蝶”を手離している。
“麗死蝶”は蛇骨が帯を解いた時に一緒に麗骨から離した。
それから今も畳の上に転がっていて、特には反応を見せていなかった。
自分たちを完全に信頼してくれるようになったのか。
ただただ、持ち主の想いに応えているだけなのか。
この妖刀の考えていることは、自分たちには計り知れない。
それでも今尚、大人しくしてくれていることは、自分たちを認めてくれているということなのだろうと思うことにした。
そして、蛮骨と蛇骨は麗骨を挟んで共に眠りに就いたのだった。
∴ ∴ ∴
眠りに就いた三人は、自分たちが行為に及んでいた時から部屋の襖の外に他に人がいたということは知る由もなかった――。