舞華

□第五抄
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 闇に包まれていたいりすの視界に、急に光が差し込んできた。

「おはよう。俺のお姫様」
「・・・・・」

 瞼を開いたいりすの目の前には愛しい男性が笑顔を見せていた。

「蛮…?どうして?」

 いりすの記憶の中では、蛮骨は自分の目の前で首を跳ねられて死んだはずだ。

 だというのに、彼は生き生きとして自分を抱き上げてそこに居る。

「四魂の玉のかけらっていうのをある奴からもらったんだ」

 それをいりすの首に仕込んでいて、それを失くすと肉体は滅びて骨だけになると説明される。

 自分も蛮骨もそのかけらの力によって生き返ったということは分かったのだが、状況が整理できないでいる。

 朽ちた人間を生き返らせるほどの力を持った玉のかけらを自分たちに差し出した人物は何者なのか、そしてその目的は何なのか。

「再会したっていうのに、考え事か?」

 蛮骨はいりすの様子を読み取って少し拗ねた。

「・・・・・」

 いりすは改めて蛮骨のことを見つめた。

 死ぬ前と何も変わらない姿の彼。

 自分が愛した男性。

「俺と会えて嬉しくないのかよ?」
「嬉しいに決まってるでしょう?」

 いりすは小さく一つ笑うと答えた。

「だから、この状況に驚いてるのよ……」

 今、蛮骨といりすがいる場所はある洞窟の中。

 いりすの死んだ場所だった。







 あの時。

 七人隊の最期の時。

 蛮骨から引き剥がされたいりすはその時の城主に気に入られてしまい、無理矢理に城へと連れて行かれてしまった。

 城主はいりすを自分のものにしようと幾度となく夜伽に来ていたが、いりすは扇の幻覚を用いてことごとくそれを退いていた。

 思い通りにいかないいりすに対して憤った城主は彼女を城の近くの洞窟の奥へと牢屋を作って閉じ込めたのだった。

 自分に助けを請えば自由にしてやるとたまに城主が直々に様子を見に来てはいたが、そこは強情な性格であったので無視を続けていた。

 愛想のないいりすの態度に城主の憤りは募るばかりであった。

 だが、食事だけは届けられていた。

 妖艶で美しいばかりのその容姿を衰えさせたくなかったようだ。

 しかし憤りを感じている城主は、食事を運ぶ者にその女をどう扱ってもいいと言い渡していたようだ。

 何度か厭らしい目をした男が牢の中に入り込んで来たことがあった。

 それも扇の術で退いてきた。

 自分の身体は蛮骨以外に触れさせるものかといりすは誓っていたのだ。

 いりすは早く蛮骨の本に逝きたくて、出された食事には一切手をつけずにいた。

 食事を運ぶ下男たちが気にして食事を勧めるが、全く耳を傾けようとしなかった。

 そして、遂にいりすは飢え死にして逝った。

(やっと、蛮の元に逝ける……)

 そう心から喜んでいたというのに。

 黄泉の世界の闇は深く、こんなに想っているというのに、長い年月、出会うことが叶わないでいたのだった。







「いりす、お前のことをどれだけこの腕に抱き締めたかったか…」

 そう言いながら、蛮骨が強くいりすのことを抱き締める。

 温もりはないが蛮骨の胸、腕、吐息、全てを感じることができる。

 どんな形でもいい。

 やっと会うことができた。
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