舞華
□第六抄
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「煙が上がってる」
赤い着物の少年から逃げ去ったいりすと花珠は蛮骨たちが復讐を果たしに行った城の方へと戻って来ていた。
七人隊から城の家宝を盗りに行くという予告状を受け取った城主は周辺の若者を根こそぎ兵隊にとり、守りを万全に整えたという。
いりすは蛮骨の手によって堕ちた城を見つめながら妖艶な笑みを見せていた。
すぐに蛮骨の後を追いたかったというのに、自分のものにしようと監禁したあの城の主。
その後継ぎがいて、それを蛮骨が討ち果たした。
ただの人間ごときに太刀打ちできるわけがない。
「いい気味…」
いりすの瞳が冥く澱んでいく。
そうして、花珠と共に城の中へと入って行った。
「ちぇっ、しょうがねえな〜。生きてる女が一人もいねえ」
討ち果たした城内に累々と転がる死体を見ながら蛮骨がぼやいた。
「蛇骨、お前の仕業だろ。酌させる女ぐらい残しといてくれよ」
「あら、私以外の女に酌をさせようと思っていたの?」
「え”?」
蛇骨に文句を言っているところにちょうどいりすが帰って来た。
(しまった…)
蛮骨は内心物凄く焦り、頬を掻きながら、いりすに笑いかけて誤魔化していた。
「・・・・・」
いりすは半眼にさせた目で蛮骨のことを軽く睨めつけた。
「そんなことより、蛮骨の兄貴…、」
酒を飲みながら、蛇骨が少しつまらなさそうな表情を向けていた。
「こんなとこで酒飲んでる場合か?俺は一刻も早く犬夜叉に会いてえのによ〜」
「焦るな蛇骨。犬夜叉は鼻が利くんだ」
「あぁ、こうしてここで待ってりゃ、血の臭い嗅ぎつけて、向こうからやって来んだろ」
煉骨が蛇骨に声を掛けると、その言葉に蛮骨は頷き、頬杖をついて楽しみにして待ち始めた。
「ねぇ、蛇骨…」
「ん?」
蛮骨に酒を注ぎながら、蛇骨の話を聞いていたいりすは少し気になることがあった。
「あんたが言ってる犬夜叉って、赤い着物の犬耳の男のこと?」
いりすのその問いかけに花珠も反応して蛇骨の返答を待った。
「あ?あぁ。そうだが…?」
「やっぱり……」
いりすは人差し指を顎に当てながら、納得した。
あの少年の姿を思い出しながら、蛇骨の好みそうだなとも思っていた。
それに、自分たちのことを追ってくる奴らなんて知れている。
「会ったのか?」
考え込んでいたいりすに蛮骨が訊いた。
「うん。さっき…。私たちの死人と墓土の臭いを嗅ぎつけて……」
「そうか……」
そう声を漏らしながら、蛮骨はいりすの肩に手を置くと自分の方へと引き寄せた。
「無事で良かったよ」
「……うん」
いりすは蛮骨の肩に頭を預けて寄り添った。
「ん?つむじ風だ」
そこへ睡骨が何者かがこの城へと近づいてくるのに気づいて声を上げた。
「てめえら、七人隊だな?」
つむじ風をあげてやって来た男は、城に着くや否や大柄な態度でそう聞いて来た。
「犬より先に狼の方が来やがったか」
「よー、鋼牙じゃねえか」
鋼牙と呼ぶ少年に、蛮骨と蛇骨はくつろいだ格好を崩さないで話し掛ける。
「てめえらが奈落とつるんでるのは分かってんだ。奈落はどこにいる!?」
尚もくつろいだままの蛮骨たちに鋼牙が吠える。
鋼牙が吠えついてくることに、頭を掻きながら蛮骨はしみじみとしていた。
「どおーも、奈落ってのは…、ほんっと色んな奴から恨みを買ってんだな」
それはいりすも思っていた。
本当に信用がならない。
また、不安が込み上げてくる。
「奴はどこだ!隠し立てしやがると……」
せっかちなのだろう鋼牙は、蛮骨たちがのんびりしていることや奈落のことを話さないことに全身に怒りを表した。
「ぶっ殺す!」
そう言い放つと勢いをつけて蛮骨たちの方へと飛びかかってきた。