舞華
□第七抄
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蛮骨が改めて命令を下した後、蛇骨は渋々で睡骨と一緒に殺生丸の元へと向かい、煉骨と銀骨は鋼牙の元へと向かって行った。
その場にはいりす、花珠、そして蛮骨が残っていた。
いりすは地面に座り込み、傍らに居てくれている蛮骨に寄り掛かっていた。
「蛮…、お願い……、私も連れて行って」
「いりす……」
自分の名を紡ぐ蛮骨が逡巡していることがその声で分かる。
いりすは苦しい身体を叱咤して、蛮骨の肩に手を持って行き、真っすぐに彼を見つめて言った。
「今度はずっと一緒に居させて!!一人にしないでっ!!」
お願いと悲痛な声を漏らす。
蛮骨は犬夜叉との闘いを前に生き生きとしていた表情を曇らせて、苦々しい表情に変わった。
「蛮の想いは…知ってる……」
「っ!!」
蛮骨はいりすの言葉に目を見開いた。
「知ってたから……、あなたの想いのために、前は自分の想いを押し殺してきた!!」
「・・・・・」
「生きるも死ぬもあなたと共にっ!」
いりすはそう言って蛮骨の胸の中に埋まった。
「はー」
すると、蛮骨が大きく息を吐いて、自分の胸の中に納まる少女の頭に手を置くと、優しく撫でた。
「参ったぜ。降参だ…」
「え?」
驚いたいりすは蛮骨を見上げた。
「分かった分かった。もうお前を離さねえよ」
蛮骨も本音はずっと傍に置いておきたい。
生きるも死ぬも共に在りたいとそう思っている。
いりすに生き続けて欲しいという自分の思いは、甦った今も変わらない思いではあるが、だがそれは、昔の思いに囚われている節もあった。
今はお互いに死人だ。
そして、得体の知れない奈落という人物に利用されている手駒であることも理解している。
(覚悟するしかねえじゃねえか…)
昔は押し殺してくれていた少女の想い。
離れ離れに死ぬことになってしまった無念。
もう少女の想いを受け留めてやってもいいかと蛮骨は観念することにした。
「ただし…」
「え?」
やっと受け留めてくれた蛮骨に喜んでいたいりすは、改まった様子の蛮骨を懸念した。
だが、彼の視線は花珠に向かった。
「花珠、お前は逃げろ」
「へ?」
突然話の矛先が自分へと向けられて花珠は驚いた。
「このままだと俺たちは奈落の思惑通りになる」
「だから?」
花珠が珍しく動揺している。
「その首に仕込まれてる四魂のかけらを持って、ここから遠くへ逃げるんだ」
「なんでっ!!?」
いりすには今の花珠の気持ちがよく分かる。
そして、蛮骨の気持ちもよく分かる。
「花珠…、逃げるのよ……」
いりすは苦しさを押し殺しながら、花珠に向き直って言った。
いりすも自分を逃がそうとすることに花珠は動揺を隠せない。
「あなたは、生きるのよ……」
「生きる…?」
大きく見開かせた目で、歪んだ表情でいりすの言葉に反応する。
「生きるもなにも、私たちはもう十何年も前に死んじゃってるんだよ!!」
両手を固く握り締め、顔を俯かせて花珠は大声を上げた。
怒りを顕わにした花珠は呼吸が荒くなっている。
いりすは寄り掛かっていた蛮骨から身体を離すと、花珠の両肩に手を置いた。
重苦しい身体を立ち上がらせる力はなかったのでそのまま膝をついて、花珠の顔を覗き込む。
「今度は私たちより先に死んでは駄目。死人でもいいの。あなたは生きて!」
「嫌だよ……」
花珠が身体を震わせている。
その大きな目には次第に涙が溜まり出した。
「私はいりす姉のために死ぬのよ」
「私のために生きるの」
「っ!!!」
また花珠の表情が歪んでいく。